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第3話 僕らの始まり。
廊下を走り抜け、いつもの場所に向かう。
視界が歪んで、うまく見えない。
少しでも早くあの場所へ。1人になれる場所へ
階段を勢いよく登る。
目から大量の涙が零れ落ちる。
《早く。早くしないと。もう限界だ。》
僕は、目的の場所につくと勢いよく扉を開け中に駆け込んだ。
さっきまで、我慢していた分の涙が溢れ。
その場にうずくまる。
《わかってた。わかってたさ。かなわない恋だってぐらい。でも・・・》
心の中で感情があふれ出す。
校庭の生徒の笑い声、蝉の鳴き声。
全てが今の僕には雑音に聞こえる。
頭が痛い。胸が締め付けられ息がうまく吸えない。
僕は、頭を抱え込みうずくまって、心で叫んだ。
《誰か。誰か助けて‼》
「ねぇ、君。ここで何やってんの?」
うずくまった頭上から、声がした。
「えっ⁉何で、ここに人が・・・」
僕はいきなりの声に驚き、上を見るとそこには、一人の生徒が僕を見下ろしていた。
彼は、びっくりした表情で、僕を見ていた。
彼とは初めて会うはずなのに子尾を見るなり何故か心ご落ち着き始めた。
「最近、よく来るよね君。」
彼は僕に質問を続けた。
「あ、いや、勝手に入ってごめんなさい!もう来ませんから!!!」
僕は我に戻り恥ずかしさのあまり、早くこの場から立ち去りたかった。
慌てて、返事を返し、急いでその場から立ち上がり、
出口の方に走って向かいさっき開けたドアノブに手をかけた。
「ねぇ、君。何で泣いてたの?」
後ろからさっきと同じ声がする。
僕は自然と足を止め。ドアノブにかけた手を止める。
「あんたには、関係ないです。」
返答したものの、僕の口から出たその答えは震えていた。
僕はうつむきながら、再び動きを進める。
「ねぇ。君ってさ男が好きなんだろ?
「えっ。」
そんな顔のまま、皆の所戻って大丈夫なの?みんなにバレちゃうかもよ?
失恋しちゃった優君。」
初めて会う彼の口から、言い放たれたその言葉に息をのむ。
「何で・・・」
なんで?ここの学園の人は知らないはず。なんで?
そのことは、誰にも言っていない。僕以外誰も知らないはずなのに・・・
なんで・・・?
「ね?優君。もう少しここにいなよ。」
僕は顔を上げ声の主を見る。
手や身体は小刻みに震え、顔や全身からは血の気が引いていた。身体は小刻みに震えている。
彼は僕に向って軽く手招きをしてきた。
僕は、その場から動くことが出来なくなっていた。
どうしよう、動けない。
どうしよう。また同じことを繰り返しちゃう。
これ以上、父さんや、母さんに迷惑かけられない。
僕にはもう、ここしかないんだ。
もうあんな目には合いたくない。
下を向きながら、昔のことを思い出し、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
やだ、やだ!怖い。
僕はもう一度彼の方を見ると、今度は自然と足が前に出た。
僕はそのまま走り出し、彼の元に駆け足で駆け寄った。
「お願い。誰にも言わないで・・・」
僕は彼の前まで行くと、声を振り絞って声を出した。
僕から出た声はすごく小さく、とても震えていた。
僕の頭の中では、昔のトラウマがリピートされ、恐怖でいっぱいだった。
「うん、いいよ。」
彼が放ったその言葉に僕は少し安心し、その場にへたれこむ。
「その代わり、俺と付き合って。」
「え・・・?」
その言葉を僕は、一瞬理解できなかった。
言い放った、本人の顔は逆光でよく見えなかったが、
どこか、満足げな笑顔をしているように見えた。
太陽がギラギラと輝く、7月の中旬。
部活動に励む生徒の声。
存在を示すかのように、泣き続ける蝉の声。
どこまだも続く空の下。
僕と先輩は、今日この日この場所で出会った。
―7月17日。夏休みまで、あと2日。―
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