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第5話
「明日はどうすんのー」
「田中さんに教えてもらったとこに散髪に行く」
ネクタイを締めながら司が答えた。
「随分なじんでますねぇ」
「君子豹変す。だ」
「自分で言うか」
もう一晩、どころか司は哲也の家に入り浸りだった。ほとんど社宅には帰っていない。時折荷物の出し入れに戻るだけだ。
定休日が違うので休みが重なることはほぼない。
哲也は休みの日はたいがい自宅の車庫で車をいじっているか、車の調子を見るためにドライブに行く。司は弱みをさらしたおかげで支店の社員とも打ち解けたらしく、地元の情報を仕入れて出かけるようになった。
身支度を終えた司は鞄を持つと当たり前のように尋ねた。
「夕飯なにがいい?」
「うーん、すき焼き。いい肉のやつ」
「あー、いい肉な」
居座っているので食費は持つつもりらしい。言ったものをちゃんと買ってくるので哲也は少し太った。
司が出て行ってから、哲也は椅子と座布団の間から映画のチケットを取り出した。
「ああぁ……今日も誘えなかった……」
食べかけのトーストを放り出して哲也はテーブルに突っ伏した。司の休みに合わせて休暇をとるつもりだった。司の趣味はわからないので、自分が好きな映画につきあってもらう態を醸し出すために痛快カーアクション映画のチケットも用意した。本当は映画なんてほとんど見ない。それもこれも二人で出かけたかったからだ。
哲也は司にすっかり惚れてしまっていた。
しかし、最初に人畜無害な振る舞いをしてしまった手前、恋愛感情を持っているとは言い出しにくかった。
何日も泊めておいて今更それはないだろう。
「俺、全然、紳士なんかじゃないのに……」
柄にもないことをした罰があたったと哲也は思った。
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