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第6話
「仕事でロシアのウラジオストックに行くことになった。一週間ほど行ってくる」
夕食に頼んだ蟹をぽんと台所のテーブルにおいて、司はいきなり切り出した。
「へぇ、外国で仕事すんの?エリートっぽい」
「いや、通訳とあっちの知り合いとの顔つなぎに呼び出されただけだ。案件には関わってないよ。まあ、お手伝いさんみたいなもんかな。ちょっと前にタンカーから海に重油が流れ出した事件があっただろ」
松井の「仕事はできる人」という言葉を話半分にしか受け取っていなかった哲也は驚いた。
「本当にエリートじゃん」
司は苦笑した。
「エリートだったら東京から飛行機で行くよ。お前は船で行けだとよ」
船泊港からウラジオストックまで貨客船の航路がある。が、片道だけでも二日かかる。
「なるほど、往復で一週間か……じゃ、土産期待してるわ。キャビアがいいかなー食ったことねぇけど」
「あーわかったわかった」
軽口をたたきながら送り出した哲也はその日の朝からまるで役立たずになった。ぼーっとしてオイル缶につまずいて、レンチを落としたり、違う車の車検証をお客さんに渡しそうになったり、部下が見つけてくれなかったら大変なことになっていた。
「しっかりしてくれよ……あれか、支店長いないから?」
「そんなんじゃないよ……そんなんだよ!バカにしろよ!……今なにしてんのかなーとか考えちゃうんだよ……」
昼飯は太一の誘いで近所の中華屋に行った。なんでも好きなものを食っていいと言われたので、チャーシュー麺と半チャーハンを食べた。また太りそうだ。
「好きって、言ったのか」
哲也は手のひらで顔を覆って首を横に振った。
「あららぁ、片思いねぇ。三十五もなってようやるわ。電話かメッセージ送ってみれば」
「……電話番号聞いてない」
こりゃだめだ、と思ったのか太一も手のひらで顔を覆った。
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