7 / 11

第7話

 小雪のちらつく夜だった。  シャッターの開く音がして、哲也は目を覚ました。  今日、司が帰ってくる。そわそわしすぎて仕事にならないのを見かねて太一が早めに仕事を終わらせてくれたのだが今度は早く帰りすぎて、こたつでうたた寝してしまっていた。  たんたんたん、と足音が階段を上がってくる。からりとふすまが開いた。 「ただいま」  司の髪や肩には雪の粒がはらはらとくっついていた。ロシアから雪の精をそのまま連れて帰ったようだった。  ちょんと司が哲也の前に座った。 「ほれ、キャビア」  膝をつきあわせてナイロン袋を差し出されても、哲也はなんだかもじもじしてなかなか受け取らなかった。 「あ、ありがとう……」  哲也の様子に司は不審に思ったのか探るような目つきで「なんかあったのか?」と聞いてきた。  司に、本当に心配されている顔でのぞき込まれて哲也はたまらなくなって本音を吐いた。 「なんか……思ったより、寂しくってさ……電話番号教えてくれない?」  司は最初面食らった様子だったが、次第に頬を染めてあの、ふわっと儚い笑顔を浮かべた。 「ああ、いいよ」 「……ありがとう」  哲也は思わず司に抱きついてしまった。  がろんと重たい音がして、キャビア缶詰が床に落ちた。はっと司の顔を見ると、雪の中で遊んできた子どもよりも真っ赤っかになっている。 「急に、びっくりするだろ」 「ごめん。じゃあ、……急じゃなかったら、いい?」 「う、うん……」  哲也は司と相対し、目をみつめながらゆっくり髪を撫でた。雪に濡れた冷たい髪の毛が哲也の体温でぬくもっていく。ゆっくりと、ふんわりと、包み込むように哲也は司を抱いた。司は哲也に身を任せ、胸に入りこんだ。司は耳まで赤くしている。温かそうな、冷たそうな。哲也は唇でその温度を確かめた。 「あ」  びくっと司の体が震えた。 「あ、ごめ……」 「謝らなくて……いい」  熱っぽい息が切れ切れに哲也の首筋にかかる。吐息に引かれるように哲也の唇が吸い寄せられた。司の体の力は完全に抜けきって、半開きの唇に哲也は苦もなく侵入した。薄く柔らかな舌をたっぷりと吸って哲也はとても満足だったが、司の反応はおずおずとしたものだった。自分の快感を表に出すのをおそれているのだろうか。ちらりと司の目を見てみるが、すでにとろりとして焦点があっていなかった。司なりに満足しているようだが、哲也は少し不思議に思った。 「……隣、行く?」  司は無言で小さくうなずいた。

ともだちにシェアしよう!