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第7話
「電気、ついてる」
カーテンこそきっちりと閉まったままではあるが、久々に部屋の主が帰宅した証を無意識の内に視界に入れていた俺はこっそり安堵する。
それだけで俺は、自身の心が自然と温かくなっていくのを感じていた。
隣りに風雅がいる。
あいたい、会いたい、逢いたい。
だけど、もう“逢えない”……じゃなくて、もう“逢わない”んだった。
先程の決心を思い出した俺は、自嘲しながら風雅がベランダへ出た俺に気が付く“キセキ”を密かに願う。
「バカだな、俺。さっきからやってること、矛盾してばっかじゃん――」
だけど――。
願わずにはいられない程、矛盾に気が付いてしまう程、風雅は俺にとって大切な存在なのだ。
「こんなにも大事、だったなんてクソっ。もっと早く気付けよ、バカな俺!」
その場に崩れ落ちる様にしゃがみ込む俺。その瞬間、願っていた“キセキ”の相手の声が聞こえた。
「何に早く気付け、って?」
「――え?」
しゃがみ込んでいた俺は、すぐ様声のする方へと顔を上げる。
「……風雅?」
一年前と変わらない、暗がりでも分かる相変わらずモデルの様な甘いマスクを持った風雅が自身の部屋のベランダからこちらを覗いていた。
その様子に、俺は思わず感情が昂り熱いものが込み上げてきてしまう。
「椿冴さぁ、その手に持ってるスマートフォン何で電源切れてるんだ?意味無さないだろう?俺、何時間もずっと連絡し続けているんですが」
やや不貞腐れた口調で風雅はそう告げると、自身の家のベランダの囲いの上によじ登り、そのまま俺の家のベランダを目掛けて囲いを軽々と飛び越してくる。
「あ、えっ?えっ?!」
突然の行為に驚愕した俺は、昂った感情も一瞬にして凪いでしまう。
「大晦日は、毎年一緒に過ごす約束だろう。何、独りで破ってるんだ?」
しゃがみ込んでいた俺の隣りへ一緒になって座り込む風雅からはシャンプーの良い香りがした。
もうお風呂に入ったのだろうか。
何よりこんな至近距離に風雅がいるという事実に、俺の胸がドクドクと激しく脈打つのが分かった。
「この前、言っただろ。大晦日、椿冴と一緒に過ごさないと次の一年頑張れないって」
「……確かに言ってたけど、だけど風雅――」
風雅、お前“結婚”……するんだろ?
そう続けようとして、俺はその言葉を呑み込む。
俺から尋ねて、今、風雅本人から「そうだ」と言われたらそれこそ俺たちの関係は取り返しのつかないものになってしまうのではないか。
一瞬にして、そんな恐怖に苛まれたからだ。
だったら今だけでも。
今年の大晦日だけでも……良い想い出のまま風雅との関係を終わらせたい。
「俺もだよ。風雅と一緒じゃないと、年越せねぇよ」
そう思った俺は、優しく微笑みながら風雅の一挙一動を目に焼き付ける為に熱っぽい視線を無意識の内に向けていたのだった。
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