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第8話
「良かった、椿冴も同じ気持ちでいてくれて」
にっこりと微笑んだ風雅の笑顔には、目尻にくっきりと皺が浮かんでいた。一年前には無かった皺だ。
セクシーだな。そう思うのと同時に、いつの間にか出来てしまった風雅との物理的距離を静かに嘆く。
「あ、のさ」
だが嘆く時間も今は惜しい。スマートフォンの電源を切っていたことを謝罪しようとした瞬間、俺の腹の虫が絶妙なタイミングで音を立てて鳴る。
「アハハハ」
間髪入れずに風雅が笑い出す。
「椿冴、ご飯食べてないのか?」
笑いながら風雅が続ける。その様子に、俺は少しだけ苛立ちを感じ顔を逸らした。
「そりゃ、さっきまで寝てたから」
「そっか、そっか。いつもだったら、ウチで一緒に蕎麦食べてる時間だもんな。俺のお袋、お前の分の蕎麦用意してるぜ」
そう言いながら、風雅は何の気なしに俺の肩へと右手を回して自身の方へと俺を引き寄せる。
風雅の胸に抱かれる様な形となった俺は、いよいよ爆発しそうな程心臓が早鐘を打つ。
あ、ヤバい。
この体勢、嬉しすぎる。
酷く赤面しているであろう自身の顔を隠す為に、俺はコンクリートでできた地面を必死で睨み付けていた。
「――でも、取り敢えず今はコレしかないから」
自身が履いていたデニムパンツの左ポケットを探ると、風雅はカラフルなパッケージで包装された何かを取り出す。その端を器用に歯で噛みちぎり、その中身を口に咥えると俺の顔を強引に自身の方へと向けた。
「えっ……?」
赤面した顔を風雅に見られてしまった羞恥心と、これから風雅は俺に何をしようとしているのかその真意が分からず酷く焦りを感じてしまう。
「腹、減ってるんだろ?取り敢えず、血糖値上げた方が良いと思って――」
そう告げた風雅の表情は真剣で、俺は金縛りに合ったかの様にその眼に囚われ動けなくなってしまった。
すると、キャンディを咥えた風雅の甘いマスクが徐々に俺の顔へと迫る。
――え?
眼を大きく見開いた瞬間、風雅の咥えていたキャンディが俺へと口移しされる。同時に、風雅の薄い唇の感触も俺の唇を通して感じていた。
これって、キス……?
思ったより弾力があって瑞々しかった。そう感じた瞬間、風雅の唇があっさりと俺から離れていく。
だがその唇はすぐ様俺の元へ戻ると、今度は舌を絡ませ俺の口腔内に隠されたキャンディをねっとりと転がし始める。
「ンっ……」
舌とキャンディ、そして唾液が絡む初めての感触に俺は頬が上気するのが分かった。
貪られる様な深いキス。角度が次々と変わり、ピチャピチャと淫猥な蜜の音が俺の耳を刺激する。
何だか、身体……熱い。
次第に、俺は全身が蕩けていく様な感覚を覚えていく。
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