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第9話

「キス、甘い?」 低く甘い声色で尋ねる風雅の問い掛け、そして手馴れたキスに第三者の存在が見えた様な気がして俺の胸はキュウと痛む。 風雅、何で俺にキス……したんだ? キスの途中であったが、俺はその痛みで我へと返り風雅の胸を強く押す。 「――椿冴?」 唐突に離れていった俺に、不思議そうな表情を浮かべる。 「風邪、引くと困るから部屋へ帰る」 キスで火照った身体を風雅に気が付かれない様、俺は凍えたフリをして背を向ける。 「帰さない」 音も無く俺は背後から強く抱き締められる。 「……風、雅?」 俺に重なる大きくて逞しい身体も、俺同様ドクドクと激しく脈打つ音が聴こえる。 もしかして、風雅も興奮……してる? もしかして、今の俺たち……“同じ気持ち”だったりするのだろうか? 「どうしてもっと早くこう(、、)しなかったんだろうな」 俺の細い首筋にシャンプーの良い香り漂う顔を埋めた風雅は、独り言の様にそう呟く。 様々な感情が交錯し答えに窮した俺は、戸惑いから押し黙る。 「一緒にいたい。たった、それだけ。それ以上のことなんて何も望んでいないのにな」 切なそうに告げる声に耐え切れなくなった俺は、思わず風雅の方を振り向く。 「――ゴメン。風雅、ゴメン……」 背伸びをし、風雅の頭を優しく抱き締めた俺は無意識の内に謝罪の言葉を繰り返していた。 俺がもっと早く、風雅への気持ちを自覚できていればこんなことには――。 「なぁ、今の椿冴の本音……俺に全て聴かせてくれよ」 風雅のその言葉を合図に、キャンディを舐め終わった俺たちはお互いを感じ合う為に何もかも脱ぎ捨て一糸纏わぬ姿となっていた。 “好きだ”とか“愛してるだ”とか。 取ってつけた様な薄っぺらい言葉を一度も交わすことは無く、代わりに俺は誰にも見せたことの無い最奥の秘孔までを風雅の前へと晒け出した。 男同士どころか、そういう経験自体この歳まで皆無だった俺。 躊躇いが全くない訳では無かった。 だが無意識に感じ取った、“次は無い”という未来。時間は巻き戻せないし、止めることも出来ない。だったら、今を受け入れ感じるしかない。 そう思った俺は、風雅へと身体を預ける。 俺の部屋の狭いベッドで興奮する程の要素が全く無い俺の身体を組み敷いた風雅は、やがて獰猛な獣へと変貌を遂げていく。 息遣いは荒く、風雅の身体に見合った逞しい屹立が物欲しそうに下腹部で震えていた。 下腹部の熱雄と同時に、後孔も風雅の男らしい角張った指でグチャグチャに蕩ける程解されていた俺は、無意識にその屹立を物欲しそうに視姦する。 「その視線、クるな。()が欲しいと啼かせたくなる」 全身汗ばんだ風雅。セットされていない前髪を無造作に掻き上げる仕草は、一切の余裕が感じられない。 風雅だったら、いい。 啼かせて欲しい。 そう思った俺は、返事の代わりに恐る恐る自らの唇を風雅へ重ね合わせたのだった。

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