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第5話 恥辱

 十三歳になったその日から、ガルシアの暮らしは全て変わってしまった。いつか一人前の武官にと秘かに習っていた剣や馬術は、当然のことながら、絶対に禁じられた。    政治や他の国の情報に関する様々な書物も離れの書斎から消えた。代わりに詩編やロマンチックな物語が置かれ、それは主にアルガナルの言葉で書かれ、サルディアの文字を目にすることが殆ど出来なくなった。  捕虜であれば、それは仕方ないこと;.....と諦めもつくが、日常生活全てがテオドールの指示によって、完全に『支配』を受けねばならないことは、筆舌に尽くしがたい苦難だった。  一番、ガルシアの矜持を打ち砕き、踏みにじったのは、食事、入浴、そして排泄行為までもが、テオドール自身とガネルク、コーエンによって管理されねばならないことだった。 「君はもう『女の子』なんだから、これはもう君のものではない。」  テオドールは、ガルシアの未成熟な男性器を掌で弄びながら、口許を歪めて不快そうに、その刺激にやわやわと勃ち上がるそれを睨み、先端の敏感な部分を捻りあげた。 「あっ......あひっ.....!」    ガルシアは身体の芯を突く苦痛とも快感とも知れぬ刺激に小さな悲鳴を上げ、身をよじった。 「これは、君の罪の証。私が罰して戒めるために残したのだ、分かるね、ルシアン」 「は......はい」  ガルシアは握りつぶさんばかりに、力強くそれを掴まれ、涙をぽろぽろと流しながら頷いた。 「よろしい」  テオドールはうむ.....と小さく呟くと、異様な形をした細かい鎖で編んだ小さな下履きをガルシアに着けるように命じた。  それはペニスと睾丸をすっぽりと包み込む形状で、睾丸の底部から二股に別れた鎖が脚の付け根を通して背後で腰の革のベルトに繋がり、ペニスの根元の両脇部分から延びた同様の鎖とともに、ガルシアの男性器を覆うように作られていた。  そして、革のベルトの内部でそれらの鎖は一本に繋がり、腹の中心に小さな鍵穴が付けられていた。  テオドールは、ガルシアが下履きを履き終わるのを見届けて、カチリ......とその鍵を閉めた。そして、指先の小さな金色の鍵をガルシアの目の前に突き付けて、言った。 「この鍵が無ければ、君は君の忌まわしいものに触れることはできない。君が男の性的興奮を覚えることを戒めるためだ。だから......」    濡れた唇がニヤリと笑った。 「尿意を催した時には、必ず私かガネルクに乞わねばいけない。『お漏らし』をする前に、ちゃんと『おしっこがしたい』と言わねばならない。『おしっこをさせてください』とね」  ガルシアは、羞恥と屈辱に真っ赤になり、身を震わせた。幼児でもないのに、何故そんな恥ずかしいことを口にせねばならないのか。ガルシアの怒りに、テオドールは眉根のひとつも動かさず、冷淡に言い捨てた。 「私を騙していた罰だ」と。  ガルシアは悔しさに泣き崩れた。が、テオドールの扱いは、もっと残酷だった。生理的現象に勝てずに、ガルシアが顔を真っ赤にして俯いて尿意を告げると、両手を背中に回し枷を嵌めた。 「テオ兄さま、何を.....」  テオドールは、ガルシアが切羽詰まる声で叫び声を上げるのを聞き流し、鎖の下履きの鍵を外して、ガルシアのペニスを露出させると、幼子にそうするように、ペニスにテオドール自身の手を添え、放尿するように命じたのだ。 「そんな、無理です。イヤ......」  テオドールは身をよじって逃れようとするガルシアを背後からがっしりと抱き抱え、耳許で低い声で命じた。 「早くしなさい。......膀胱を刺激されないと出来ないのか?」  長い指が容赦なくペニスを扱きあげ、掌で睾丸をぐりぐりと押されて、ガルシアは耐えきれず、テオドールになぶられて尿を放った。 「顔を上げなさい。正面を見るんだ」  顎を掴まれて上向かされた先には、低い便器の背後の壁全面に設えられた鏡が、その無惨な姿を映していた。  テオドールに抱え込まれるようにして、性器をいたぶられ、涙でぐしゃぐしゃになった哀れな自分の姿に、ガルシアは眼を背け、俯こうとした......が、テオドールの容赦ない手が、その顔を鏡の方に引き戻した。 「恥ずかしいかい?ルシアン。だが目を背けてはいけない。君はもっと辱しめを受けねばならないのだ。......長いこと私を騙していたのだからね。その罪の重さをしっかりと思い知るんだ」  きれいな水で尿道まで洗われ、柔らかなシルクの布で拭われて後、再び鎖の下履きを履かされて、ベッドに戻された時には、既にガルシアは、羞恥と絶望で一言の言葉を発することも出来なかった。  そして、その耳に突き刺さった、テオドールの情け無用の一言がガルシアの矜持の最後の一片を切り裂いた。 「死のうなどと思ってはいけないよ、ルシアン。君の母君や兄君ばかりでなく、国民も道連れにすることになるからね。サルディアを地図から消したくは無いだろう?」  ガルシアには、ただ忍び泣くことしか、出来なかった。

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