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第9話 続・おにーさんと魔術師団仮眠室*

 ふわふわした気持ちのままぼんやりしていたら、エリオットさんに悪いな、と苦笑交じりの声をかけられた。また自分の世界に飛んでいきそうになってしまった…!仕事中だし、何よりもエリオットさんと一緒にいるんだから、しっかりしなければ…!気まずさを誤魔化すように、いえと似たような表情を浮かべて返事をする。   「アイツのこと、気にしなくていーから」 「えっと…先ほどの女性の…?」 「そうそう。アイツ、どーも俺と好み被んだよなぁ…あ、それともリオは俺よりアイツの方が……」  箱を下ろしながら、エリオットさんは自分で言った言葉にショックを受けた様子で僕の方を見てくる。年上のお兄さんなのに、可愛いって思ってしまう事が多々あるこの人は本当に不思議だ。  そんなエリオットさんと先程のお姉さんを比べどっちが好きかと聞くなんて、愚問すぎる。僕だって魔術師さんなら誰でも良いわけじゃない、ふわふわ温かい気持ちになるのはエリオットさんだけなんだ。 「僕は、エリオットさんが良いですよ」 「あー、だよなぁ、やっぱその年なら巨乳…って、え?!俺?!」 「はい。お姉さんも美人な方でしたが、エリオットさんとお話する方が好きです」  驚いてじっと見つめてくるエリオットさんの眼力がすごくて、穴が空いてしまいそうだ…自分の素直な気持ちを伝えただけなのに、なんだか急に恥ずかしいことを言ったような気がする。 「え、えっと…補充、しますね……」  尻すぼみになっていく声。俯きがちに作業を始めた僕をやっぱり二つの瞳は追いかけてきた。うう……もう勘弁して欲しい…! 「まじか……天然恐ろしい…」  何かを囁くような声が聞こえたけど、はっきりとは聞き取れなかった。だから、あえて聞こえないふりをして作業を進めていると、横にあるソファーが音を立てながら揺れる。見覚えのある足も視界をかすめたから、エリオットさんが座ったんだろう。  ◆ 「そーいえばさ、この前クレアを治癒したんだって?」  補充作業もあらかた終わり、不足品の数をチェック表へ記入した時だった。  しばらくの間静かに見守ってくれていたエリオットさんからそんな事を問いかけられ、そう言えばと思い出す。 「はい、クレアさんからご指名を頂いて…」 「ふーん……なんかあった?」  少し固めな声に違和感を覚えながらも、クレアさんを治癒した時の事を思い出す。あの時は治癒ではなく、僕がエリオットさんの部屋に泊まっていた件について話をする事が目的だった…謝られたんだけど、それを本人に告げるわけにもいかない。他に特出すべき点なんてあっただろうか…?  治癒についても、特に異常もなく…終わったのか…?そう言えば、治癒をかけた以降の記憶がひどく曖昧で、気付けば自分がベッドに寝ていたんだった。エリオットさんは、この事を聞いている…? 「僕…治癒した後の記憶が一部飛んでいるんです」 「記憶が飛ぶ?どんな風に?」 「治癒を始めた時は覚えてたんですが、ふわふわしてきて…気づいたら、僕が治癒室のベッドに寝ていました」 「……それ、起きたらすっげー体調悪くなかった?気持ち悪いとか、頭痛いとか」 「え、なんで知ってるんですか…?」  びっくりした、なんで正確に言い当てられるんだろう。驚く僕にエリオットさんはなんとも言えない苦笑を浮かべる。 「記憶飛ぶタイプかぁ……」  聞き覚えのある発言に、首を傾げてしまう。治癒後に記憶が飛ぶって言う、僕が知らないような常識でもあるのだろうか…覚えていないことに罪悪感を感じてしまう。そう思っていたのが顔にでていたのか、お前は悪くないから、と頭を撫でられてしまったけれど…本当にそれで良いのかな…。 「納得いかないって顔だな」 「そ、そんなことは……」 「記憶が飛んだ理由、教えてあげよっか?」 「教えてもらいたいです!」  食い気味の返事に、エリオットさんは金色の目を細める。それがスイッチのように、彼が纏う雰囲気も突然変わった。  この感じは…資料室の時と、同じだ…飲み込まれて、指一本も動かさずにただじっと見つめることしかできない。 「”干渉”って、知ってる?」  干渉…確か、クレアさんもそんなことを言っていた気がする。でも、それがどんなものなのかまでは知らない。 「他者に接触をする時、干渉って言う現象がおこる。接触っつっても、単純に触るだけじゃ関係ない。魔力での接触だ」 「魔力での…治癒って、事ですか?」 「その通り。治癒するために自身の魔力を流し込めば、必ず相手の魔力に触れる事になる。だから、一番被害にあいやすいのは治癒師ってこと」 「でも、僕そんな話初めて聞きました…」 「干渉の度合いって魔力量によるんだ。基本は干渉を受けていても気付かない程度。異変を感じるのは、魔力量が多い相手だった場合なんだけど、その時は無意識に防衛反応が働いて接触を制御してるから、干渉による異変をモロに受けるやつはそうそういない。まあ、相手の力が強すぎて、制御しても負けちまうって事はあるけどな」 「なるほど。けれど、お互いが少しだけの接触になるって事は、治癒の効率も下がりませんか?」 「だな、治癒師にとってはうざったい現象だわな。でもさ、稀にいんだよ、制御無し全開で干渉を発生させちまうやつが」 「え、それって危険じゃないんですか…?」 「干渉で引き起こされる症状にもよるかな。症状は人それぞれなんだけど、眠くなりやすいって言う症状が多いかもしれん」  眠くなりやすいって言う言葉には思い当たる出来事がある。クレアさんの治癒の後、起きた僕へヴィンさんが治癒をかけてくれた時だ。僕自身も眠くなったし、ヴィンさん自身も眠くなるって呟いていた。  そう言えば、患者さんへ治癒をかけると、その人が眠ってしまうって事もよくある。それも干渉によるせいなんだろうけれど…その場合は僕自身が眠くならないのはなぜなんだろう? 「干渉なんて、魔力の力比べだからな。上回った奴の力が体内へ回るから、免疫のない弱い方が先に症状が出る。それから本人に回り始めるのが基本だけど…まー、そこは体質関わってくるかな。俺とか弱いから、先に落ちちゃうし」 「先に落ちちゃう…?」 「それは良いとして。制御しないやつの話に戻るけど、俺が思うに、リオはその制御しないやつに分類される」 「え、僕が…?!」 「おー。ほんの少しだけ治癒してもらったけど、あの凄まじさ…リオ自体は眠くなる症状を引き起こすから、力の弱い一般人を治癒すると相手が寝ちまうんだろう」  ずっと抱えていたけれど書き込んでいなかったチェック表を、とうとうテーブルの上へと置いてエリオットさんを見上げる。妙な緊張感を感じてしまい、コクリと唾を飲み込む。 「本当に…僕は、制御が出来ないんでしょうか…」 「一瞬だったけど、おそらくな。まあ、眠くなるようなら問題も無いし、大丈夫だよ」 「…でも…」 「とんでもない症状を引き起こす奴もたくさんいる、気にすんなって」  そう言われても、そうなんですかと納得できない。今まで僕は、皆が出来ていることができない状態で治癒に当たって迷惑をかけていたなんて…そのことを知っていたから、クレアさんも干渉が大きいと言って引き気味だったんだ…。 「言っとくけど、制御出来ないのが悪いわけじゃない。むしろ治癒師なら誇っていいレベルだ」 「え…?」 「効果半減せず、短時間で終わらせるなんて、なかなか手に入らない能力だろ…それに、さっきも言ったけど、眠くなるってのは一番都合の良い症状だ」 「本当ですか…?」 「おう、クレアは酩酊感だし、俺なんて迷惑かけちまうし」 「迷惑…?」 「ビッチなんて呼ばれる元凶。なーに?リオもおにーさんの体験してみたい?」  そう言って、伸ばされてくる手を避ける事は出来ない。頬に触れられた手は少しだけ冷たくて、気持ちが良い…その手が離れないように自分の両手でそっと包むと、擦り寄るように少しだけ頬を寄せた。 「エリオットさんを、迷惑なんて思ったことは一度もありませんよ」 「え…」 「僕でよければ、いつでも治癒、しますからね。あ、でも僕も制御できないんでしたっけ…迷惑かけちゃいますかね…」  差し出がまし事を言ってしまった。恥ずかしくなって、誤魔化すように苦笑を浮かべたけれど、僕を見つめるエリオットさんと目が合って息が止まる。目の前の綺麗な男の人は、とても嬉しそうに笑っていた。 「本気にするよ、俺」  恥ずかしくて目が合わせられない…泳いでしまう僕の頬を、触れたままの指が数回撫でてくる。ゆっくりと視線をあげれば、優しげに微笑む顔があった。 「ほら、俺に治癒かけて?」 「はい…」  治癒をお願いする声にすら、なんだか色香を感じてしまう。これからエリオットさんの中へ自分の魔力を注入するのだと思うだけで妙な気持ちになっていく。  目を閉じて、いつものように集中をする…触れあっている手の部分から、送り込んでいけばすぐに脈に乗り、温かい物に包まれる感覚。そして、流れ込んでくるのは不思議な感覚…初めて治癒室の前でエリオットさんを治癒した時に感じたアレと同じ物。  あの時は、これが何なのか分からなかったけれど、今は少しだけ察しがつく。 「ん、やば…」  吐息交じりなエリオットさんの声が聞こえてきた。薄く目を開けば、エリオットさんはきつく目を閉じて、堪えるような表情を浮かべている。彼の耳にかかっていた、ピンク交じりの金の髪が流れるようにして肩へ落ちて行く…ただ、それだけの光景なのに、ひどく興奮を覚えてしまう。  もっとこの顔を見たい、もっと感じて欲しい…包み込む程度だった手へぎゅっと力を込め、送り込む魔力の量を増やす。それを敏感に感じ取ったエリオットさんの体がビクンと大きく揺れた。 「ぁっ、やだ、つよ…!」  開かれた瞳は涙で潤み、頬は赤く染まる。荒くなった呼吸のせいで口は常に開きっぱなしで、しきりに両膝をくっ付けてもじもじと動かし始めた。治癒によりここまで変わってしまった姿を見て、僕自身の呼吸も荒くなって、下半身へ熱が集まりだしてくる。 「すごい…ッ、全開って、こんな…、んあ、だめ!」 「エリオットさん…ッ」 「やああっ、つよ、ぅぁ、あああッ」  首を振りながら声を上げるエリオットさんは、もう受けている干渉に飲み込まれてしまったようで瞳の焦点が合っていない。次第に大きくなる喘ぎ声を、堪える所まで頭が回っていないんだろう。隣の部屋ではまだ魔術師さんたちがたくさんいるから、これ以上騒いだらバレてしまう…もう僕が直接塞ぐしかない、ごめんなさいエリオットさん…!  触れ合っている部分が離れないように立ち上がり、ソファーに座っているエリオットさんの上へ跨るようにして乗り上げる。縮まった距離のお陰か、甘い香りが鼻を掠めた。 「リオ…、りおぉ」  頬を触れていた手を絡めるようにして握り、コートを掴んでいたもう片方の手も同じように開いている手で絡める。両手から遠慮なく魔力を送り込むと、エリオットさんは面白いぐらいに喘ぎ声を上げながら体を跳ねさせた。 「エリオットさん、こっち向いてください」  言われた通りに顔を上げた所で、唇を塞ぐようにキスをする。外へと出るはずだった喘ぎ声が、僕の口内へと響き、くぐもったものへと変わった。ふらふら彷徨っているエリオットさんの舌を、資料室でやってもらった時と同じように絡めとって吸い上げる。 「んぅ!んーーッ!!」  金色の瞳から涙を零しながらビクビクと体を振るさせていたエリオットさんは、一際大きく跳ね上げてから、くったりと全身の力が抜けて行った。やばい、調子に乗ってしまった…!治癒をするはずだったのに、ぐったりさせてしまうなんて治癒師失格だ…!  力なくソファーへ寄りかかるエリオットさんの顔を覗き込んでみれば、荒い口呼吸を繰り返しとろりとした目をしていたけれど…治癒中より意識はあるみたいだ。 「良かった…」 「リオ…お前、ほんと、すげー」 「え…?」 「触りもせず、治癒だけでイかされるとか…初めてだわ…」 「イ…?!」 「リオは?まだイってない?」 「ひぇ?!」  絡めていた手を解かれ、エリオットさんは迷いなく僕の下半身を掴む。治癒に夢中になっていたけれど、本当は僕だって相当興奮していて、下着の中でみっともなく立ち上がってしまっている。痛いほど主張しているそこを服の上から軽く扱かれただけなのに、ビリビリとした感覚が走った。 「今度は俺の番な」  ニっと笑ったエリオットさんによって、あっと言う間にソファーの上へと座らせられ、ズボンを降ろされる。交代するように床へと膝をつけたエリオットさんは、僕の足の間に体を滑り込ませると、膨れ上がっている下半身へ顔を寄せてきた。 「エ、エリオットさん…?」 「かわいそーに…こんなに腫らして、辛いだろ?」  軽く触れるだけのキスをそこへと落とされて、触れるたびに腰が揺れる。引こうとしても後ろはソファーの背もたれ…これ以上下がる事もできず、足の間にエリオットさんがいるから閉じる事も出来ない。  何でもキスを落とされ、軽く先を吸い上げられ…痺れるような刺激に襲われた。気持ち良くて思考も鈍り始めた頃、名前を呼ばれる。視線を向けると、こちらを上目で見上げ僕に見せつける様に舌を出してきた。 「何を…」  根本を両手で握り、僕の昂ぶりの上へ出された赤い舌からは、トロリとした物が垂れ落ちる。唾液が垂れ落とされているのだと認識した瞬間、一気に顔が熱くなる。口の端を上げたまま降りてきた頭は、やっぱり表情を僕に見せる様に顔を上げて僕の下半身を頬張った。 「ぁう…ッ?!」  手とは比べ物にならない熱い物が全体を包みこんできて、堪え切れず顔を天井へと向ける。じゅぷっと言う水音をあげながら、温かいものは上下へと動き始めた。自分で触るのとは全然違う、予想できない刺激とエリオットさんにしてもらっていると言う事実…快感と感情によって、物は更に膨れ上がった気がする。 「ひっ、んぁ…!」  指による擦りと、吸い上げられ締め付けられる刺激だけでも気持ち良い。それなのに、柔らかな舌が予想の出来ない動きで這いはじめ、ゾクゾクが止まらない。エリオットさんの口が汚れてしまうからやめて欲しいくって、もがくように首を振ってみるけれど、もっとして欲しいって気持ちと競り合って言葉にできない。 「ぁっ、あうっ、あっ」  結局は、リズムに合わせて意味のない声が口から漏れた。ああ、駄目だ、隣には人が沢山いるのに、声を止められない…!両手で口を押えて、必死になって歯を食いしばっていたら、突然包み込んでいた温もりが消えた。 「俺さ、クレアを治癒したって聞いて、正直妬いたんだぜ」  咥え込む事はやめたけれど、下から上へ向かい舐めあげることは止めないエリオットさんは、舐めあげる合間に話し出す。刺激は止めどなく与えられているから、相槌はうてないけれど…そんな事を気にすることなくエリオットさんの話しは続けられる。 「でも、いい。俺、今すげー嬉しいから」  昂っている下半身へ頬ずりながら、金色の目を甘く細める。限界が近いのに、緩やかにあたえられる刺激がつらい。 「俺の症状、分かったっしょ?性的興奮が高まる…けど、俺の事、これからも治癒してくれるんだよな?」  ちゅ、ちゅ、と先端を唇で嬲られ、腰が震える。早くもっと強い刺激が欲しいけれど、エリオットさんはそれ以上を与えてくれない。 「リーオ?」 「んっ、します…!エリオットさんを、治癒、します…!」 「うん、いーこ」  催促に対し必死になって答えれば、エリオットさんは歯を見せて笑う。無邪気な笑顔から一転、すぐに色気を滲ませた笑顔へと変わると、大きく口を開けて僕の物を咥え込んだ。  口全体を使っての吸い上げと共に、激しく上下され、卑猥な水音が部屋中に響き渡る。追い打ちとばかりに手でも根本を擦りあげられる。 「エリオットさん、もう…!だめぇ…!」  もう出ちゃう、出ちゃうから…!口を離して欲しいと訴えるのに、視線だけをこちらへ向けたエリオットさんは楽し気に微笑むだけで、一向に離してはくれない。それどころか、更にスピードをあげて追い詰められる。  気持ちい…もう、駄目だ…!目の前が白くなって何も考えられない。ビクビクと腰が震え、解放される気持ち良さに、たまらず目を閉じた。

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