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第10話 おにーさんと治癒室*
呼吸が整わなくて、肩を揺らしながら口で大きく吸う。閉じていた目を開いてみても、視界がぼやけ全身の力が抜けて眠い。
ソファーへ体を沈みこませ、天井を見つめていると、足元でサラリと何かがあたった。ゆるゆると視線をずらせば、僕の物から顔を離したエリオットさんがもごもごと口を動かしていた。
「エリ、オットさん…?」
驚くぐらい弱々しい声だった。本人としては情けなさを感じたけれど、足元の綺麗な人にとっては関係が無かったようで…機嫌よく口の中を動かし、こくりと喉が鳴る。それが飲み込んだ動作だって事は分る。じゃあ、何を飲み込んだ…?
さっきまでの行為を思えば、答えは簡単だ。一気に血の気が引く。なんて物を飲み込んでしまったんだ、この人は…!
「やだ、エリオットさん、それ汚いから…!」
「んなわけ無いだろ」
「ありますよ…!うそ、全部飲み込んじゃったのか?!」
慌てて頬を掴み口を開けさせるけれど、赤い口内にはもう何も残っていなかった。
「もっと濃いかと思ってたけど…リオ、一人でした?」
頬を掴んでいた僕の手を、やんわりと外したエリオットさんの問いかけに固まる。
まさか…クッキーを見て、貴方との行為を思い出し、貴方に触ってもらっているのを想像しながら自分で収めていました…なんて言えない。言葉に詰まった僕を見て、エリオットさんは少し不満げな顔をする。
「何?いつの間に一人でするようになったの?」
「いえ、その…」
「誰か想像してやったわけ?」
「ッ!?」
言えない、言えるわけがない…!きゅっと唇を噛んだ僕を、金色の瞳が見つめる。見透かされてしまいそうで怖い…それでも逸らさずに見つめ返していると、フッと相手の力が抜けた。
「まあ、いーよ。とりあえず、今はこっち」
昂りが収まり、下を向き始めていた下半身に再び熱が纒わり付く。目で見なくても分るけれど…驚き下を向いた視線の先では、先端を優しく舐めていて、腰が震える。
「エリオットさん…?!も、もう良いですから…!」
「らーめ、まらついてる」
僕の物を口に含みながら断ってきたエリオットさんは、執拗に先端ばかり吸い上げる。
「ぁッ、」
せっかく収まりかけていたのに…みるみる硬くなってしまった…。
上を向いた所で根本辺りにまた指が這い、きゅっと、締められる。
「ひんっ?!」
先端の穴の部分を舌でつつかれ、思わず声があがる。口を抑えるけれど、声を我慢するにはもう遅くって…続けて与えられる刺激のせいで断続的にだらしない声が出てしまう。
「やぅ?!ッ、やめ、てぇ……ッ!」
「なぁ、もっかい飲ませて」
息を乱しながら僕の物を擦りあげる姿に、どうしようもなく煽られる。そんな顔されたら、頷くしかないじゃないか……!
言われるがままに頷いた僕と、エリオットさんの行為は、止まる事が無かった。
◆
「リオー、まーたご指名だ」
カーテンを開けると同時に、ヴィンさんが顔を覗かせる。指名って言葉に、これから会える人を思うと嬉しくなって顔がニヤケそうになる。必死に堪えながら、分かりましたと返事を返したら、代わりにヴィンさんがニヤついた視線を向けてきた。
「少年の成長は早いもんだなぁ…」
「え、な、なんですか…?」
「リオのおかげで、エリオットも落ち着いたもんだ。案外おまえみたいのが良いのかもな」
「え、えっと…」
「一番奥だからって、あんま大声だすなよ。誤魔化すの大変なんだぞー?」
頑張ってこい、って言いながら、ヴィンさんは口の前で親指と人差し指で輪っかを作る。それが物を舐めている光景に似ていて、一気に顔へ熱が集まった。
「もう、からかわないで下さいっ!」
恥ずかしくて思わずあげてしまった大声だけれど、ヴィンさんは楽しげに笑う。早く行ってやれって促されて、逃げるようにして個室に向かって歩き出す。歩調は次第に早くなって、部屋についた頃にはしっかり走ってしまっていた。
ドアをあければ、すでにベッドの上で寛いでいたエリオットさんが待っていた。象徴である黒いコートが投げるように椅子に掛けられてる…あれじゃあ皺になってしまう。
「すみません、遅れました」
「俺が早く来すぎただけだし」
うつ伏せで本を読んでいたエリオットさんは、ゆっくりと起き上がる。僕はと言えば、彼のコートを手に取りきちんとハンガーへと掛け直す。ついでに皺も払っておこう…軽く生地を叩けば、エリオットさんの匂いがした。
「んなのいーのに」
「ダメですよ。この制服を着ているエリオットさん、カッコイイんですから」
頬を膨らませる姿に小さく笑いを漏らしながら、お茶の準備にとりかかる。この人は甘党だから、砂糖も山盛り三杯必要なのに、外では何も入れず痩せ我慢してる事を知ったのは最近だ。
本人曰く、カッコ悪いからとの事だけれど、甘党な所は可愛いと思う。他の人にエリオットさんの魅力がバレなくて都合が良いので、あえてそれは口にしていないが。
「リーオ、早くー」
背中が重くなったと思ったら、肩口にエリオットさんの顔が現れる。後ろから抱き着かれた事に少しだけ動揺した。
顔には出さないように務めながら視線を向けると、近すぎる位置にある綺麗な顔。こんなアップ心臓に悪い…慌てて下に泳がせたら、足元が見えた。逃げるように、この人はまた靴下のままで床を歩いてしまっているなんて、思考をずらすのに必死だ。
「飲み物はいーから。早く、こっち」
「…分かりました。ちょっと待って、」
「白衣も脱がなくていーよ、おいで」
誘うように腕を引かれ、ほだされてしまう僕もいけない。いつもなら、せめて白衣だけでも脱いで始める治癒だけれど、今日に限ってはそんな暇も与えてもらえなかった。
そこまで待たせてはいないはずなのに…単純に、今日のエリオットさんは、早く始めたい気分なだけなのかもしれない。
「えっと…今日は何が良いですか?」
「んー…擦り合うやつ。あれ、リオ好きっしょ?」
「うっ…」
二人ベッドに上がり今日の注文を聞けば、予想外の返しを食らってしまった。な、なんで僕が好きなやつがバレているんだ…!言葉も出ずに、向かい合って座ったエリオットさんを見つめると、得意げな顔をしている。
「よゆーの無いリオの顔見んのが趣味だから」
普段、あんなに声をあげているのに、しっかり見られていたなんて…!こういう時、年齢が離れているのが憎い。僕がエリオットさんと同い年だったとしても、きっと余裕の無さは今と変わらないと分かっていてもだ。
「不貞腐れんなよ~、ほら、初めようぜ」
甘く囁くような声に、喉が鳴った。ゆっくりと顔が近付いてきて、慌てて目を閉じる。触れる程度の軽いキス…その触れ合っている部分から、エリオットさんの中へ魔力を送り込む。
治癒をするのに魔力を送り込む際、触れ合っている場所は問わない。手首や腕が、お互い抵抗もなく触れ合える場所として一般的なだけであり、キスによる治癒だってやろうと思えば出来る。むしろ、表面よりも体の内側だから、行き渡るのも早い。効率だけを考えれば、推奨される箇所だったりする。
これは、最初の頃、エリオットさんに治癒をする場所を問われた時に話した内容だ。
治癒の場所はどこでも良いって回答だったのに、どんどんと誘導尋問をされ、最後にはキスは有効な方法だと言わされてしまった。腕から治癒をした場合でも、最後は性的欲求を互いに満たし合うんだから、最初からキスでもいーじゃん。効率的に考えて、と悪い笑みを浮かべ迫られた時にはもう遅い。流されるように始めたキスによる治癒行為は、今では当たり前のようになってしまっている。
こんな風に言い訳をしているけれど、普通に話している時に、キスしたいって思う時はたくさんある。でも、僕たちの関係は簡単に触れ合うことが出来るような物じゃない。だから、こうやって理由をつけて、流されるようにしてエリオットさんに触れる機会を作る。
いつの間に、僕はこんなにも卑しい人間になってしまったんだろう。
そんな事が頭を掠めるのも一瞬。すぐに入り込んできた舌を絡め、触れるだけだったものが深いものへと変わっていくと、それに夢中になってしまう。治癒をすればする程にエリオットさんが流れ込み干渉が発生し、ゾクゾクとした感覚に体が震える。
「っは、ん…」
最初こそエリオットさんに押されるけれど、治癒をすれば形勢逆転。自分の干渉による影響を強く受けてしまうエリオットさんの体は、すぐにぐずぐずになる。力の抜けた頃合を見計らって体重かけると、体は簡単にベッドへと倒れ込んでいく。
キスを中断させないように気をつけながら、覆いかぶさるように体を跨ぐ。鼻にかかる甘い声とリップ音だけが響くと余計に昂りを感じ、腰を下ろして服の上から自身を擦り付けた。
「んッ!ぁ、ふっ、」
ピクっと反応を示したエリオットさんからでた声を、飲み込むように唇を塞ぐ。僕に応えるように、下からも擦り付けられ互いのに硬くなった物を押し付け合う。
口でも応えようと懸命に舌を伸ばしてくる行動が可愛くて、それを吸い上げながら唇を離すと蕩けた瞳が見上げてきた。間接照明に照らし出されるは、ベッドへ無造作に広がるピンクゴールドの髪と、唾液を飲みきれずに汚した口元、赤く染めた頬で妖艶と微笑む姿…ぞくりとする色気が堪らない。
「ッ、まだ、治癒しますか?」
「それはもういいから、早く…」
誘うように腕を伸ばされ、否応なしに欲情する。頭を近付けると、待ってましたとばかりに首元へ腕が絡み付いてきた。そのまま首の後ろから力を掛けられ、再び唇を合わせる。
さっきまでは合わせた箇所から治癒の為の魔力を送っていたけれど、今度はそれをせず単純にキスを楽しむ。治癒をしていないと、まだまだエリオットさんのテクニックには勝てないのが悔しい…気持ち良い所を重点的に攻め立てられて息があがる。
キスだけなのに、下半身へ熱が集まり今すぐにでも爆発してしまいそうだ。ここで流されちゃだめだ。
魔法師団の休憩室で交わした、エリオットさんの治癒を担当するという約束から一ヶ月程経った今…何度もこんな行為を重ねてきて、僕も少しは学んだんだ。ここでエリオットさんに主権を譲ってしまったら、散々泣かされる事になる。
大人しくシーツ掴んでいた手を、ゆっくりとエリオットさんの胸へと這わせる。コートを脱いでいるお陰で、すぐにシャツ一枚を隔てた胸の頂きに指は行き着いた。
小さく主張するそれは、既に硬くなっていて、布越しでもその触感が感じ取れる。練るように何度も弄っていれば、リードしていたはずのエリオットさんが息をあげ始めた。
「っぁ、リオ…!」
「どうしました?」
堪らず唇を離して抗議してくる顔が可愛い。微笑みを浮かべながら、出来る限りの優しい声を意識して返事を返すと、涙で潤んだ瞳で睨みつけられてしまった。
「おま、んっ、どこで覚えてきた…!」
「何がですか?」
そう言いながら、最初からボタンが外れて大きく開けられている首元へ唇を寄せる。香ってくるエリオットさんの甘い匂いが堪らなくて、啄むように何度もキスを落とした。
もちろん、指はそのまま胸の硬いところから動かしていない。コリコリ弄る度に、小さく声があがるのが嬉しい。
「焦らす、なぁ…!」
「僕が色々教えて貰っているのは、エリオットさんだけですよ?」
にこっと微笑みながら真実を伝えると、彼の顔が一気に赤く染まる。普段なんでもないような顔で恥ずかしい事を口にするのに、本当の事を言われるとこうやって赤くなるのも最近気づいたことだ。
そんな所も可愛いと思えてしまう。エリオットさんは、綺麗で、カッコ良くて、可愛い。ずるい人なんだ。
会話を交わしながらも指は動いて行き、留守にしていた方の手でボタンを外していく。白いシャツの下から出てくるのは、日に焼けていない白くきめ細かい肌。それを軽く撫でるだけで、甘やかな声が上がった。ぷっくりと赤く腫れている胸の飾りに目を奪われ、思わず顔を寄せる。唇で触れるだけのキスを落とせば、硬さは増したような気がする。
「くっ、そこ、ばっか…!」
嫌だと首を振られ、首を傾げる。
おかしいな、エリオットさんはここを弄られる好きなはずなんだけれど…
硬くなった先を片方を指で、片方を唇で刺激しながら様子を伺うと、口元に手の甲を押し付け必死に耐えている。嫌そうには見えないけれど、本人が嫌だと言う事はしたくない…ゆっくりと触る位置を下へと移動させていく。
ズボンの上からでも分かるぐらいに主張しているそこを、早く楽にしてあげたい。ズボンも下着も下へと下ろせば、立ち上がり大きくなっているエリオットさんの物が飛び出てきた。
先からはトロリとした液体が垂れてきていて、感じてくれてるのが視覚で確認出来る。それが嬉しくて…気付けば、その液体へと舌を這わせて舐めとっていた。少ししょっぱいこれが、エリオットさんの味なのだと思うと、とても興奮してしまう。
もうちょっと、これを口に入れたい…本当は口いっぱいに咥えてみたいのだけれど、いつも途中で止められてしまってお預けを食らっている。今日は大分力も抜けてるみたいだし、大丈夫かな…?挑戦してみようと、何度か先端にキスを落とす。
「ぁんっ、こら、リオ…!」
「なんですか?」
「それはいいから…早くリオのも出して」
少しだけ体を起こし僕のズボンを引っ張り強請られては、駄目とは言えない。僕の扱いが本当に上手い。
小さく頷いてから同じようにズボンを下ろすと、勢い良く自身が飛び出してきた。エリオットさんに負けないぐらい、先は濡れていて…それが照明で照らされ光る姿が恥ずかしい…
さりげなく、自分の着ている白衣の裾に隠れるように腰を引いてしまう。
急かされ、下にいるエリオットさんの物と並行するように腰を下ろし、猛っている二つの物を、そっと片手で掴まえると扱くように手を動かした。
「ぅ、ぁう…ッ、あ!」
「ふぁ…ッ、」
動かしている僕でも情けない声を漏らしてしまうんだ、されるがままのエリオットさんは、敏感に震えながら短い声を何度もあげる。互いの先端からはとめどなく液がこぼれ、互いを汚しあう。手による刺激と、物同士が擦れ合う刺激が気持ち良い…一人では絶対に得られない快感を体はしっかりと覚えていってしまう。
気持ち良いのに、もっと欲しい…そんな浅ましい本能は止められなくて、無意識の内に腰が揺れる。それはエリオットさんも同じで、甲高い声をあげながらも腰が上がっている。
「あっ、きもち、あぁっ」
「んッ、エリオット、さん……!」
さすがにこれ以上騒いだら怒られる…くる前にヴィンさんに釘を刺されたばかりなんだ…
息が掛かるほど顔を寄せれば、察してくれたエリオットさんは荒々しく唇を重ねる。問答無用でエリオットさんに舌を捉えられると、音を立てながら吸われ、自分の体の力が抜けていく。
そうすれば、今まで大人しかったエリオットさんの腕が、扱いている僕の手を包み込むようにしてやってきた。きゅっと力を込められると、今度はエリオットさんが僕の手ごと上から覆い握り、互いの物を扱き始める。
「あぅ?!ひゃぁ、んっ、む…っ!」
攻守交代。自分の手なのに予想外な動きと、お互いが擦れ合う刺激のせいで限界まで上り詰めていく。僕も負けないぐらいの声を上げてしまいそうで、唇を噛み締めたいのに、それをエリオットさんは許してはくれない。
代わりにと言わんばかりに、僕の情けない喘ぎ声を食べてしまうようなキスを送られる。
「んっ、はふっ、んんーーーッ!」
ビクッと大きく体が痙攣して、白い液体が飛びエリオットさんのお腹を汚した。ワンテンポ遅れて、エリオットさんからも白い物が飛び、僕が汚した上へと散らかった。
今すぐにでも力を抜いて覆いかぶさりたいけれど、生憎しっかりと制服を着込んでいて、この後も仕事が残っているから汚すわけにはいかない。なんとか膝に力を込めて耐えていると、下から熱っぽい溜息が聞こえた。
「白衣姿のリオのぶっかけ…すげー、萌える」
そんな蕩けきった顔で、何て事を言うんだ…!この人は…!
麗しい年上のお兄さんを目の前にして、僕の下半身はすぐに硬さを取り戻してしまう。いち早くそれを感じ取ったエリオットさんは、いやらしい顔で笑った。
「まだ体が辛いんだ。延長お願いします、治癒師さん」
「ッ、かしこまりました」
ああ…ヴィンさんごめんなさい。しばらくこの部屋は空きそうにありません。
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