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第18話*
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そうは決意をしても一朝一夕で魔力が溜まり切るはずもなく、数週間と今まで同じ生活を繰り返していた。一回でどれぐらい溜まるかは分からないが、成人男性5人分といえばそれなりの量であることぐらいは俺でも分かる。体を重ねることも慣れ始めていて、悔しいが今では気持ち良さの方が強い。
毎回と言っていいほど甘い言葉を囁かれ勘違いしそうになるのがつらい所だ。相手は仕方なく、契約で俺のことを抱いている。そう分かっているのに、囁きを聞く度に愛されているんじゃないかと思ってしまう俺は、抱かれすぎてどうかしているのかもしれない。
だからこそ、相手のために何かをするなんてやめた方がいいんだろう……ビジネスライクが良いはずなのに、今日も今日とてユーグが好みそうなレシピが載っていそうな本を探してしまう。
「……はあ。俺って、本当バカ……」
どこかで聞いたことのある独り言を吐き出しながら、数冊を小脇に挟んで図書室を後にする。晴れない気持ちのまま歩き出し、ふと窓へ視線を向ければ恋の悩んでいる顔をした俺が飛び込んできた。こんな顔であの部屋に戻れそうにない。前にユーグと一緒に見た中庭でも一周してから戻ろうか。
目的地を変えようと方向転換をした所で、視界全体が黒に染まる。驚き一歩後ずさりながら見上げれば、人当たりの良さそうな笑顔を浮かべたイストが立っていた。
「イ、スト、さん……?」
「はい。イストです。こんにちは、マコトくん」
「こ、こんにちは」
ここまで接近されていたのに全く気配を感じなかったことに恐怖を感じながらも、それを相手に悟られない様に必死に笑顔を作り返事を返す。それに気づいているのか、イストは特に気にすることなくにこやかにしている。
「お久しぶり。マコトくんがお一人だなんて珍しいこともあるんですねぇ」
「あはは。俺もたまには一人で出たりしますよ」
「本を借りに?」
「はい、個人的に貸し出してもらっていて……あ、それよりも、この前は機会を設けてくださってありがとうございました」
「いえいえ、大したことはしていませんよ」
「間に入っても下さったじゃないですか。正直、有難かったです……」
「ふふ。マコトくんは律儀ですねぇ」
「そんなこと……」
「ミサキさんのことを心配していたのでしょう? 貴方の気持ちが、僕はとても嬉しかった」
思いもよらない発言に、なんて返せばいいのか迷う。聖女を支える立場であるのは知っていたが、美咲に固執しすぎじゃないか? 大体、この人は聖女のことを名前で呼んでいただろうか。
呆然としている俺に気づいたイストは、すみませんと苦笑いを浮かべた。
「突然で驚いてしまいましたよね。実は、祈りの間に入っていた期間で、お互いの気持ちを通じ合う機会がありまして……だからこそ、ミサキさんのことを死ぬまで大切にすると誓います」
なるほど、そういう関係だったのか。妹がイストに強制されたんじゃないかって発言に怒ったのも納得がいく。
「いえ、そこまで言ってくださるなら、貴方に任せても大丈夫ですね」
「ありがとうございます。彼女を愛おしと思う気持ちに、嘘はありませんよ」
「ありがたいことです。聖女と言っても、身寄りもいない世界でただ一人なので……支えてやってください」
「お任せください」
今までの笑顔とは違い、ふわりと慈愛を帯びた微笑みを浮かべたイストは深く頭を下げた。まるで結婚する娘を託す父親のような気持ちでその動作を見つめていた俺だったが、顔を上げたイストは、それよりも! と声を張ってきた。
「マコトくんですよ!」
「え、俺ですか……?」
「還りたいって本気ですか?」
「あぁ……当り前じゃないですか」
「ユーグを置いてですか?」
「置いてって……あの人は責任を取って俺のことを手元に置いてくれているだけですよ。実際迷惑も沢山掛けてるし、」
「迷惑?! 何を仰っているのですか、マコトくんがユーグに掛けられていることはあっても、ユーグが貴方のことを迷惑に思うなんて有り得ない」
「そんな大袈裟な……」
「いいえ。付き合いが長いので分かるんです。最近の彼、楽しそうなんですよ?」
貴方のお陰でしょう? と嬉しそうに笑うイストの視線から逃れるように、俯いてしまう。俺が、ユーグにとってそんな存在な訳がない。ただの契約相手だっていうのに……
それでも、彼の孤独も目の当たりにしているからこそ、はっきりそうじゃないとも言い切れなかった。独りで平気なのだろうけど、意外寂しがり屋であることも知っている。生活能力だって低いし、目を離せばすぐに部屋は散らかり、食事だって抜いてばかりだ。俺がいなくなれば、きっと荒れ放題な前の生活戻ってしまうんだろう。正直今の生活はとても楽しい。できるならユーグの従者としてこれからも続けていきたいとも思える。だけど……
「俺は、ユーグと契約したから……」
「契約ですか?」
にこにこと笑っていたイストが首を傾げる。緩く笑顔を浮かべ続けているにも関わらず、黄色の瞳の中にある瞳孔が絞られている。その瞳と目があった瞬間、ひゅっと喉の奥が無意識に鳴った。失礼な反応をした俺に構うことなく、口元だけは柔らかな笑みを浮かべながらイストは一歩距離を詰めてきた。
「どのような内容かお伺いしても?」
「え、っと……」
「もしかして、貴方を元の世界へ還す……そんな内容でしょうか」
「ま、まあ……そうですね……」
「タダで?」
「え……」
「あの男が、タダでそんなことをすると?」
「その……俺に、できることで手伝ってる、みたいな……」
「ほう」
ただでさえ細かった瞳孔を更に細めたイストは、俺の頭の先からゆっくりと視線を降ろしていく。石のように動かなくなった体を舐めまわすような視線を向けられ、鳥肌が止まらなかった。
必死に耐えていれば、腹の部分でイストの視線が止まる。じっとそこを観察するように見つめていた彼は、なんだと小さく呟くとニヤっと口元を歪める。
ゆっくり伸びてきた白くて細い指が、腹へと触れる。くるくると撫でまわされると、体全身に悪寒が走り、相手の手を叩き落としたい衝動にかられた。だけど、それは衝動だけで、やっぱり体は一切動くことができない。
いつの間にか繰り返していた短い口呼吸が掛かるほど近くへとイストの顔が寄せられる。
「マコトくん、ご自身の評価を改め直した方がよろしいですよ?」
「な、に……」
指でぐるぐるとなぞっていた接触を、手のひら全体に変わる。情事を連想させるように撫で上げられ、気持ち悪さに呼吸が止まった。
「ふふ、僕に触れられて苦しいでしょう?」
「ひ……ッ?!」
囁くような声と共に、足の付け根を撫でられて悪寒が止まらない。それでも動かない体に、必死に耐えようと歯を噛みしめた。
「こんな拒絶反応まで出して……貴方は、ユーグ無しで生きていけるんでしょうか」
何を言っているんだ……? 相手の発言に、理解が追い付かない。
じわりと歪んだ視界いっぱいに、艶やかに微笑んでいる美しい顔が広がる。
「仲良くなれるおまじないです」
瞬間、大事そうに俺の下腹部へ当てていた手の部分から背骨を伝って強烈な悪寒が全身を襲った。
「ぁ?!」
堪らず上げた悲鳴と共に、体が崩れ落ちる。しかし、床へと倒れ込むより先に、目の前に立っていたイストに抱きかかえられた。バチバチと雷に打たれたような刺激とひどい吐き気に襲われ、唇を噛みしめてひたすらに耐える。
「大丈夫、貴方にも適性があるはずです。ダメだったら妹さんと一緒に僕が引き取りますから安心なさってくださいね。だからほら、しっかり呼吸をして?」
あまりの気持ち悪さに相手が何を言っているかなど聞き取ることはできない。そんな俺へ何度も落ち着いて、呼吸をと繰り返し、やっとのことで背中を擦るイストの動きに合わせて呼吸を整えることができた。
それでも体調が良くなることなど一向にない。不思議とユーグの所に戻らなければという考えだけが頭を占め、ほぼ気力だけでイストから体を離した。
「大丈夫ですか? お部屋までお送りしましょうか?」
早く、早くユーグの所に行かなきゃ……虚ろな意識の中、重すぎる一歩を踏み出す。自由の利かない体を引きずるようにしてイストから離れるように歩き出すと、少しずつだが力が入ってきた気がする。
「どれだけ溜められているんでしょう……純愛って美しいですねぇ」
くすくすと楽しそうに笑っているイストの声がやけにうるさく聞こえる。今はとにかくユーグに会いたい、イストから離れたい。その一心で、鉛のような体を引きずり歩くことでいっぱいいっぱいだった。
その後どうやって戻ったのかあまり覚えていなかった。イストから距離をとればとるほど力が入るようになってきたが、気持ち悪さとひどい悪寒は続いていた。
最初ほどでもないにしても、ふらつきながらユーグが待っている部屋へと逃げ込む。急いで扉を閉めて鍵を掛け、深呼吸をするとユーグの香が胸いっぱいに広がった。何度か繰り返してやっと落ち着いた所で顔をあげたら、執務机に座っていた部屋の主と目が合う。異常な俺の行動を少しだけ驚いた表情で見ていたユーグには、全てお見通しのような気もしたけれど……できるだけど何事もなかったように明るい表情を作る。
「悪い、すぐ飯作るわ」
借りてきた本をソファーの上へと置いてユーグの隣を通り抜けようとしたが、しっかりと腕を掴まれ止められた。やっぱり見逃してもらえなかったか……様子を伺うように座っているユーグへ視線を向ければ、相手はじっと俺の腹部を見つめていた。
「えっと……?」
「イストか?」
「え……」
「腹、触られたのだろう?」
「なん、で……」
「見ればわかるさ」
この人たちは一体何が見えているんだろう。訳も変わらず見つめていると、腹の向けられていた視線が上へと動き、やっと相手と視線が絡む。独特な色をした瞳を優しく細めたユーグは掴んでいた手を放し、腕を広げた。
「顔色も悪いな。かわいそうに……おいで」
その言葉に疑問を感じることもなく、体はゆっくりとユーグの方へと向かう。胸の中へと自ら収まり、座っていたユーグの頭を抱き込むようにして腕を回す。触れあった所から伝わる体温にひどく落ち着く。自然と詰めていた息を吐き出すと、優しい手つきで腰を撫でられた。触れられた所から流れ込んでくるユーグの魔力で徐々に体から力が抜けていく。それと同時に、気持ち悪さも消えていく感覚が心地よい。
「ん……」
連動するかのように鼻から抜けるような甘えた声が漏れ、慌てて口元へ手の甲を当てた。今は、俺の体調を気遣ってくれてるのに……!
感じてることを悟られないに唇を噛みしめて堪えるのを知ってのことなのか、腰を撫でていたユーグの手が腹へと回ってくる。触れられた所と同じ、下腹あたりを円を描くように撫でながら魔力が流し込んできているのが分かる。温かさと共にピリっとした痺れ……それから、急に敏感になる感覚。布越しで撫でられているだけだというのに、もどかしい刺激にビクっと腰が震えてしまう。
「ふ……ッ!」
緩急をつけながら撫でられ、段々と呼吸が荒くなっていく。我慢しなければと思えば思うほど、体は感覚を拾ってしまうようだ。このまま服の下へ手を入れてくれれば……直接、腹の奥へと注ぎこんでくれればいいのに……そんなはしたない考えが走り、強く頭を振る。何考えてるんだよ、俺! もどかしすぎて頭がおかしくなったみたいだ……!
「はは……かわいいな」
胸元でユーグが何か呟いているが、耐えることに必死でうまく聞きとることができなかった。どうしたのか、腕の力を緩めて胸元にいたユーグを覗き込めば、楽し気な瞳がこちらを見上げてきた。
「なんだ、もう蕩けているじゃないか」
「そんなこと……!」
「我慢しなくて良いんだよ」
「んあ?!」
殊更優しく目を細めると同時に、肌を直接触れられた感覚に思わず声を上げる。慌てて自身の下半身へと目を向けると、一糸乱れぬローブの下へ腕が入り込んでいる。いつの間にか寛げられて余裕のあるズボンの中へとユーグの手が入り込み、股間ギリギリのラインを撫でていた。最初とは明らかに違う、焦らすようないやらしい手つきに鳥肌が立つ。イストと触られた時だって同じように鳥肌が立ったはずなのに、ユーグが触るとここまで違うものなのか。気持ち良さで力が抜けない様、目の前の肩へ両手を付き耐える。目を閉じてなんとかこの感覚をやり過ごそうとしていた俺を良いことに、手は更なる侵入を開始し、下着の中へと張り込んできた。
ゆるく立ちあがってしまった自身に気づいているはずなのに、わざとそれには触れず指先でなぞりながら更に奥へと進んでいく。
「マコト、足を開けるかい?」
「ん……」
優しく促され足を開ければ指はとうとう最奥にある窄まりの部分までに到達してしまう。ひくひくと無意識に動くそこの皺を伸ばすように指先を捏ねられ、ガクンと腰が揺れる。膝の力が一瞬だけ抜けたが、慌てて持ち耐えるた俺に、ユーグが機嫌よく笑った。
「いい子だ。そう、そのまま足を開いていて……」
小さな物音の後に、嗅ぎなれた花の香りが鼻を掠める。挿入前に必ず使ってくれているオイルと同じそれに、一気に期待が膨らみ、興奮が高まっていく。窄まりの周辺で遊んでいた指が動くと、そのまま下っ腹の前で熱い感覚。それが洗浄魔法が施されたのだと慣れてしまった体が理解する。
中に、出してもらえるんだろうか……?
恐る恐る目を開けば、艶っぽく微笑むユーグがこちらを見つめていた。
「ユー、グ……」
「なぜイストに触れられたのか、それは後で聞こう。まずは、身を清めようか」
「は、い……!」
衣擦れの音と共に、下半身に冷たい空気が纏わりつく。肌寒さを感じるよりも先に、オイルを纏わせたユーグの指がつぷりと窄まりの中へと入り込んできた。いつも1本からゆっくり慣らしていくはずなのに、今回に限って質量がすごく、思わず力が入る。そうすれば案の定力を抜いてと囁かれ、なんとか呼吸と共にゆっくり力を抜こうと試みる。すると、再びユーグの指が静かに動き、次の瞬間に電流が走るような衝撃に襲われた。
「ひあぁあ?!」
続いて流れ込んでくるドロリとした甘い感覚に、大量の魔力が流し込まれたのだと分かる。一度にこんな量を流し込まれたことなんて初めてだ。体全身に走る衝撃と熱さにあっけなくイってしまい、ビクビクと腰が震えて力が入らない。
息も絶え絶え、しな垂れかかるように倒れ込んだ俺を軽々と抱き上げたユーグは、そのまま足を開かせて自身の膝の上へと座らせた。まるで自ら足を開いているような体制になった所で、再びオイルまみれの指が中へと入り込み、卑猥な水音を響かせながら動き出す。
「あ゛?! あ゛、あ゛ぁ゛ぁ゛!!」
いつもなら俺の様子を伺いながら愛撫を施すというのに……俺への配慮は一切なく、いまだ引きずる絶頂の快感に引くつく窄まりの中を激しく掻き混ぜられている。目の前でチカチカと星が飛び、ユーグの首元へとしがみつくだけで精一杯で、垂れてくる唾液を気にする余裕もなく与えられた快感に声を上げてしまう。
まるで勝手に体を触らせたことを責められているようで……口にしてはいないが、ユーグは怒っているのかもしれない。
動いていた指が引き抜かれ、息を吐く。やっと止まってくれた感覚に、息つく間もなく腰を持ち上げられると、今後はユーグ自身が押し開いてきた。
「ひう?!」
指とは比べ物にならない質量のそれに敏感になっている体が反応を示す。太く硬い存在を欲しがっているように、腹の奥で熱が渦巻いている。早く欲しい。そう思った瞬間、腰を支えていたユーグの手が外された。
「ぉ゛あ゛あ゛?!!」
バチュンと肌同士がぶつかり合う音と共に、大きなユーグのモノが腹の奥へと突き刺さる。力が抜けていた体は、ユーグの支えを失えば落ちていくのは自然のことだ。そのせいで、自ら相手のモノを奥へと招き入れる形となってしまったのだが、突然の強烈な刺激が背筋を走り、一瞬意識が飛んだ。
ビクビク腰が震え続けているのを理解するほどの思考能力なんてどこにも残っておらず、訳も分からないまま、ただ襲い来る快楽に喘ぎ続ける。
「入れただけで達してしまったのかい? 全く、はしたない子だ」
「ひッ、んあ、ご、めぇ、」
下から突き上げるように腰を動かすユーグに合わせて、視界が揺れる。反射的に謝罪を口にしたが、全てを言い切る前に動かされ最後は喘ぎ声へと変わってしまう。今までにない程奥へと入り込んできたユーグが最奥を何度も突き上げてくる度に、目の前でチカチカと火花が散るようだ。
「しっかりと上書きをするから、全て受け止めなさい」
「あ゛ッ、ふ、ぁあッ!」
「マコト?」
「おく、や、めッ!」
「なるほど、そこまで奥が好きだとは……私もまだまだだったようだな」
もう入らないはずのそこ目掛け、怒張した先端が執拗に突き上げてくる。強すぎる快感に耐えるよう首を振りながら、落ちてしまわないように必死に目の前の男へと縋りつく姿はなんともちぐはぐだ。それでも、今の俺にはこの人しかいない。気持ち悪さが体全体から抜けていき、快楽にすべてが塗りつぶされていく感覚がゾクゾクして堪らない。
もう奥なんて入らない、入れさせてはいけないと本能で分かっているはずなのに、これ以上許したらどうなってしまうのか好奇心と期待で早く来て欲しいと望んでしまう。
「全く、随分と、淫らになったものだ」
突き上げるスピードが徐々に上がっていくのは、最後が近い証拠だ。
「あぅ、あッ、も、イく……ッ!」
少しだけ苦し気だけど、ひどく楽しそうな声で呟いたユーグが一際強く突き上げた瞬間、先に限界を迎えたのは俺の方だった。再びの絶頂に腰が震え、体がしなる。息ができないぐらいの気持ち良さに顎を上へと上げたまま口を開けひたすらに感じ入る体につられるようにしてユーグも魔力と共に欲望をぶちまける。腹奥から伝わるドロドロの熱くて甘いソレに、イったばかりの体が敏感に反応をし、痙攣が止まらない。
「ひッ、あ、あぁ、ぅ、……ッ!」
何かが下腹で暴れ、それを丸のみしているような感覚がする。自分の体なのに、何が起こっているのか全く分からない……分からないけれど、気持ち悪さが消えて一気に体が軽くなったような気がする。
「ぁ……? ん、ぁ……」
「終わったよ、マコト」
与えられた強すぎる刺激でバカになった頭では何も考えられず、息も絶え絶えで呆然としている俺の下で、ユーグが殊更優しく微笑みかける。いい子だと頬を撫でてくる手が気持ち良くて、無意識に顔をすり寄せるとそのまま顎へ指を掛けられ下を向かされた。ちゅっと軽い口づけの後に、赤と紫のグラデーションが綺麗な瞳と視線が絡む。燻ってはいるが、少しだけ落ち着きを取り戻してきたお陰で、優しい眼差しに、もう怒っていないのだと気づけて安心した。
理由は分からないが、ユーグが怒ることをしてきたにも関わらず、まずは俺の体調を優先してくれたんだろう。
「君は……本当に、理解し難いなあ」
「?」
「理由も言わずいきなり抱かれたと言うのに、私の意を汲んでくれるのかい?」
「え……」
「健気で可愛いが……もっと分からせたくなってしまうな」
「んぁ?!」
未だ中に入ったままだったユーグのモノが、一回り程大きさを増す。再び奥を押し広げられて、思わず上ずった声が漏れてしまった。膝上に跨っていた俺を易々と持ち上げたユーグは、ゆっくりと床へと降ろされる。かくつく膝のせいで体勢が崩れない様体を支えてくれていた腕が、机の方を向くように促してきて、言われるがまま執務机へ両手を付く。
ここまでくれば、この後に待ち受けていることが何なのか想像がつく。まさかと思いながら振り返れば、人が悪そうな笑顔を浮かべた主人により、腰を引かれ、尻を相手へ突き出すような体勢を取らせられる。
「ちょ、ユーグ?!」
「おや、あれほど乱れたにも関わらず、しっかりと出さずに達していただなんて。上出来だね」
静止を込めた呼びかけはスルーしローブを捲り上げられた。それに対してなにかを言うよりも先に、ユーグの発言が衝撃的すぎて、急いで下半身へと目をやれば、指摘通りの染み一つない綺麗なローブが広がっている。
確かに数回イッたはずなのに、射精を伴っていないだなんて……! 目に見えなかったから気づかなかったが、しっかり調教され始めている体に羞恥心が煽られる。
そんな動揺している俺の後ろで、鼻歌でも歌いそうな様子のユーグが俺の腰を固定すると、張り詰めていたモノを擦り付けてきた。
「ぅ、ぁ……」
ほぼ条件反射で腰が震え、鼻から抜けた甘えたような声が漏れる。オイルとユーグの精液により濡れそぼっている窄まりへと先端が当たった。慣れきってしまっている体は、その僅かな動きだけでも歓迎するように絡みついていく。
「ん……、は……!」
先ほどとは違い、味わうようにゆっくりと押し進められる。倒れないようにか、はたまた逃げないようにか、腰を抱くように後ろから回された腕が外側からも力が加わり中を圧迫される。鈍く響く快感をなんとか逃がそうと息をする度に口からは喘ぎ声が零れ落ちていく。
時間をかけながら最後まで入り切った所で、大きく息を吐き出す。すると、そのタイミングを狙ったかのようにユーグが軽く突き上げてきた。
「ひあ!」
甲高い声を上げる俺の後ろで、フっと息が抜ける音がする。俺の感じ入る姿を見て満足気に笑ったであろう主人は、腰を抜け切るギリギリのラインまで引いてから一気に押し入れる。幅広になっている部分の抉るような刺激が背筋に走り、連動して背中が反った。
「あッ、んぅ、は、あッ、あぁッ!」
リズミカルに乾いた肌同士のぶつかり合う音が鳴る。流れ込んでくる魔力のせいもあり、感覚が強まっていき、体の力が抜けていく。ずぐずぐな状態ではまともに上半身を支え切ることすらできず、目の前の机の上へと倒れ込む。腰を支えてもらっているお陰で床へ崩れ落ちることはなかったが、そのせいで自身で腰を高く上げて求めているかのような体勢を取ってしまっていた。普段なら恥ずかしくて絶対にしたくないと思うが、今そんなことに構うほどの余裕などどこにもない。
「んああッ、あぅ、あッ」
早くなる突き上げに、目の前の机へ必死に縋りつく。ユーグが纏めていたであろう紙へ頬を擦りつけていると言うのに、絶え間なく襲い掛かる刺激に口が閉じられない。俺の体と涎のせいでぐしゃぐしゃになってしまっていく書類の変化を見るだけでも、後ろから激しく犯されている今の状況を説明されているようで興奮が増してしまった。
「ぁ、だめ! イく、あんッ、あ、~~~~ッ!!」
絶えず流れ込んでくる蜜のような甘い魔力のせいで、理性などとうに飛んでしまった。具合の良い所を執拗に押しつぶされ、迫りくる絶頂に息が止まる。
「~~ッ、は……ッ、んぅう……」
何度か大きく痙攣をした後に、小刻みに肺へ酸素を取り入れてなんとか迫りくる衝撃をやり過ごす。それでもあと引く余韻に目を瞑り耐えていたら、ぐるりと中を大きく掻き混ぜるように再びユーグが腰を動かした。
「あぅ?!」
突然の不意打ちに大きな声が出てしまった。イったばかりで敏感すぎる中を擦りあげるような動きに、大きく目を見開いてしまう。
「んッ、ま、ぁあ……ッ!」
何とか動きを止めさせようと声を上げるが、うまく呂律が回らない。俺がどんな状態かなど後ろから見ているのだから、分かっているだろうに……全く動きを止めてくれないどころか、再び奥を突き上げるような挿入が始まる。
「あ゛ぁ?! あ゛ッ、んああッ!」
早いリズムで揺らされるタイミングで、ポロポロと書類の上へ水滴がこぼれる。目の前がぼやけていて、そこで勝手に涙が零れ落ちているのだとやっと気づけた。
「や、ぁあ!」
「ん? どうした?」
「な、んれぇ……?!」
ユーグがまだイっていないのは分かるが、もう少し待って欲しい。普段なら俺が落ち着くまで待ってから動いてくれるはずなのに、乱暴と言っても良いユーグの様子に文句をつけようとするも、今の体にそんな余裕はない。ひたすらに甘ったるい声を上げながら腰を突き出している俺を覆い隠すように、後ろからユーグがかぶさってきた。強くなる香りと体温に、腹の奥が切なくなる。止めて欲しいのに、最奥へとユーグの熱が欲しくてたまらない。
「あ゛ッ、ぅ、うああッ!」
気持ち良くて死んでしまいそうだ。ガリガリと机へ爪を立ていると、その手の上から大きなユーグの手が重なり、指を絡められた。
「マコト」
「ひぅ?!」
耳元で囁く声はいつもより低く掠れている。ひどい情欲を滲ませた声が腰に響き、軽くイってしまう。
「君の契約者は、誰だ?」
「あ゛ぁ゛ッ」
「誰と契約している?」
何か問いかけられている、それは分かるけど襲い来る快感で何がなんだか分からない。勝手喘ぎ声をあげている俺に、小さく息を吐いたユーグがこめかみへと唇を寄せて再び囁いた。
「マコト、君は誰と契約をした?」
ガツンと頭の中へと響いてくる掠れた低音に、全身がゾクゾクと鳥肌が立つ。信じられないほどの気持ち良さだと言うのに、何を言われているのかしっかりと理解ができて、無意識に口が動く。
「ゆー、ぐ……!」
「そう……君の体内を埋めている魔力は誰の物だ?」
「ゆ、ぐぅ!」
俺の返答に満足げに笑う声が聞こえる。彼が話す音すべてが性感帯を刺激していくのだが、そこへ喜びの感情が乗ることで更に気持ち良さが増した気がする。
「そうだ、それなのに、こんな簡単に他人に触れさせるだなんて……君は、悪い子だな」
「ご、めぇッ」
「君は、誰の物だい?」
「ゆー、ぐぅ……ッ、」
「そう、マコトは、私の物だッ」
甘い囁きと共に腰の動きが更に早まる。ユーグの限界が近いことを示しているその動きに、もう何も考えることもできずに体の全てを彼に明け渡す。
「あッ、あん、ッ、あ、ぁあ」
「は……ッ、出すぞ」
「ちょ、だい…ッ! おくに、ゆーぐ、のぉ」
最奥目掛けて入り込んできたユーグから熱い物は放たれて腹の中を満たしていく。軽い痙攣をしながら出てくるそれがいつもより量が多いような気もする。
「んぁ……で、てる……ユーグの……」
普段から受け止めている魔力とユーグの物だが、今はそれが不思議と嬉しく感じる。ぐったり倒れ込んで背中に感じる相手の重さも相まって、中から外までユーグでいっぱいになる。肺いっぱいに彼の香りを吸い込んだ。
「俺の中、ユーグでいっぱいだぁ……」
襲い来る強い疲労感に瞼が重い。眠りに落ちる直前、ふわふわする意識と多幸感に口角が上がり、相手の頬へ擦り寄って……そこから先はぶつりと意識が途切れてしまった。
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