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コーヒーの温かさと無愛想

「おい、そこ邪魔なんだけど」 背後から低く地を這うようなドスの効いた声。 慌てて振り返ると真後ろの窓から全身真っ黒なエプロン姿の男が睨みあげていた。 このカフェのオーナー……? にしてはやけに怖い雰囲気だな。 「あ、すみません!すぐ退きます」 「………雨宿りなら中でしろ」 「へ……?」 それは中に入ってもいいってこと? いや、でももう九時だし、ドアにはCLOSEって看板が掛けられてるし。 恐る恐るもう一度男の人を振り返る。 すると男の人はチッと軽く舌打ちを残して店のドアを開けてくれた。 舌打ち……でも開けてくれたし、良い人には変わりない…のか? いやいやいや、普通初対面の人に舌打ちする!? 「……なに突っ立ってんだよ。とりあえずその辺座ってて良いから」 「は、はい!お邪魔します…」 座っ……?『その辺』と指さされた所には既に掃除済みなのか丁寧に積まれた木製の椅子と小さめのテーブル。 ひとつたりともズレたりせずに積み上がった椅子のタワーから一つ、そっと取って広いホールの出来るだけ壁側に座る。 「えーっと、失礼します」 「ふっ、家具に挨拶するとか変わってんのなお前」 なっ、笑われた!? そりゃ決して声に出して笑っていた訳じゃないし口調も荒々しかったけれど、 さっきまで怒気を含めていた声はどこか優しげで忍び笑いそのものだった。 あの険悪そうな顔がどういう顔で笑うんだろう……? なんとなく気になって思わずあの人が消えた方を横目で盗み見る。 けれど残念にもコーヒーカップの並んだ棚でその奥がよく見えなかった。 「ちぇ〜……見えると思ったんだけどなぁ」 「何がだ?」 「っひぃ!?」 急に真後ろから聞こえたバリトンボイスに肩が大袈裟に跳ねる。 まさか笑ったとこが気になってただなんて言えない……! 「つーかなんでこんな端っこに居んだ。おら、机と椅子全部並べろ」 「全部……って、えっ全部ですか?」 「あぁ。テーブル1、椅子2にしてくれれば配置とか気にしなくていいから。」 えぇ……普通気にするもんじゃないのか? なんて何故かしかめっ面の人に聞けないし、とりあえず言われた通り満遍なくホール全体に並べていく。 冬の夜九時と言えば外は真っ暗だし、照明もテーブルの上に置くらしい間接照明しか無いためやや薄暗い。 良い雰囲気のお店だなぁ。 お礼も兼ねて、改めて来ようかな。 「よし!終わりました!」 「ん。助かった」 相変わらず無愛想なその人は何やらトレーを片手に、コーヒーカップをもう片手に近くのテーブルに戻ってきた。 「こんなもんしか用意出来ないが……コーヒーは飲めるか?」 「はっ、はい!」 ちらっと目が合い慌てて返事すると、白を基調としたお洒落なカップに美味しそうな出来たてのコーヒーを入れてくれた。 そのカップの隣には同じ模様の皿にサンドイッチが並んでいた。 ハムチーズ、トマトツナレタス、玉子。 どれも大好きな具だ。 「わっ、美味しそう……!わざわざありがとうございます!」 「ん。まぁ元々この時間帯に夕飯作ってるし、ついでだ」 眉間の皺は寄ったままだけど、「気にするな」と差し出してくれたコーヒーの丁度いい温かさに、きっとこの人は元がこういう顔なだけで本当はそんなに怒ってない……?なんて思ってしまう。 「……?何見てんだ」 …………そんな訳、ないか。

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