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第3話
弓谷の答えなど待たずに、及川は弓谷の方へ近づいて、その綺麗な顔の触れる。俯いていた弓谷の瞳をまじかに捉えてそのまま自分の唇を、弓谷の唇に重ねた。
「…!」
もし、間違っていたら。そんなことは及川はもう考えていなかった。クビになる恐れだってあるのに、そうならない絶対の確信があった。
弓谷さんは僕に、惚れている。
ブラックコーヒーが好きなのも知ってたし、可愛いって言っただけであの反応。
何より、キスしても驚いているものの、全く抵抗してこない。
唇を離し、今度はおでことおでこを合わせる。
「弓谷さん、何とか言ってください。じゃないと僕どうしたらいいかわからないです」
甘えるかのような及川の声に、弓谷の返答はない。
メガネを机に置いて、及川の顔を自分の方へと引き寄せる。
今度は弓谷からキスしてきた。
「んっ…」
優しいキスはいつの間にか、貪るような深いキスに変わっていく。何度も何度も、深いキスを続けた。
***
「お前、もし違っていたらどうするつもりだった」
ようやく冷静になった弓谷は、帰り支度をしながら、及川に聞いた。
「考えてませんでした!でも、なんか分かんないけど自信あったんです!」
きっぱりとそう答えた及川に、弓谷は大笑いする。こんなに笑った顔を見るのは初めてかも知れない。
「弓谷さんは何で僕を気に入ってくれたんですか?」
「…さあな」
「教えて下さいよ」
「気が向いたら、な」
弓谷は笑いながら答える。
ああやっぱり綺麗な顔してるなあ、と及川は見つめながらその顔に手を伸ばす。
(もっと、触れたいなあ)
座ったまま、及川を見つめる弓谷の顎を上げてもう一度、キスをする。
「弓谷さん、もう少し、触れていい?」
及川は空いている右手を伸ばして、スラックスの上から弓谷のソレを弄る。
ソコは既に硬くなっていて、弓谷は返事の代わりに、深いキスで答えた。
「…仕事もこれくらい、早くしろよ」
弓谷がそう言うと、及川は苦笑いした。
***
「森川、どう思うあの二人」
「あー、ひっついた感あるね」
弓谷と及川はいつも通りお互いに接しているはずなのだが、森川と西野には既にバレていた。
「今日は高見さんのとこか」
「ええ。弓谷さんの企画持ってきますね」
クライアントである会社へのプレゼンの準備をしながら、及川が答えた。
「まあ通らないわけがないけどな。高見さんによろしく伝えといてくれ」
他の会社は森川たちがやるが、この会社だけは付き合いの長い弓谷が直接関わっていた。
「弓谷さんの企画ですから。間違いないですもんね」
大きな笑顔を見せる及川に、弓谷も思わず笑う。
「まあ早く帰ってきて、成果聞かせてくれ」
「はい!じゃ、行ってきます!」
及川と弓谷の恋愛は、これから始まったばかりだ。
【了】
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