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第3話
一昨日、ふと、SNS で再会した昔の恋人にメッセージ送ってみた。大学時代の恋人だ。3年ほど付き合ってた。
ヤツは卒業後、
普通に就職して、俺と別れたあと、
普通に女と結婚した。
ヤツの妹情報によると、新婚旅行はイタリアに行ったらしい。俺と初めて行った海外旅行先だ。思い出の上塗りして、俺との思い出をなかったことにでもしたんだろう。
改めて SNS を眺めてみたら、
その後、普通に子供二人つくって、
転勤で隣の県に引っ越したらしい。
普通に家族でサッカー観戦とかいって、
普通に生ビールのカップ持ってスタジアムで自撮り写真とかアップしてる。
普通の人生だ。
シャイで口数は少な目だが気のいいヤツで、顔がものすごく俺の好みで可愛くて、一目惚れだった。
バイト先で知り合って、ドライブに誘ったのがきっかけで付き合い始めた。
下宿先に、のり弁一緒に食べようって買って来てくれた。俺は誰かにそんな風にご飯持って来てもらうのが初めてで、すごく嬉しかった。
俺を見る優しい目から、俺のことをとても好きでいてくれるのが伝わってきて、幸せだった。
当時からヤツは「普通」にこだわっていた。
男同士で付き合ってるのに、その時点で普通じゃないだろ、と俺は思ってた。
いわゆる個性派の、フツーじゃないない俺は、よくヤツに説教されていた。
こんな風に思い出してくと、別れたのって、俺がヤツのフツーに付いていけなくなったからだ。
「お前のフツーって、なんなんだよ」
なんてことを言ったんだ、俺は。
ヤツは、自分のフツーを曲げてまで俺と付き合ってくれてたのに。
最低だ、俺。
でも、今でも同じこと、
うん、やっぱり、言っちゃうだろうなぁ…
「フツーってなんだよ?」
って、さ。
…あのまま続けてたとしても、確実に、いつか破綻してたに違いない。うん、確実に。
大学出る頃、就職氷河期だった。
不器用な俺は危うく就職浪人だったが、幸か不幸か、小さな編集プロダクションに入ることができた。希望した大手出版社とは程遠いが、同じ業界に入れて、俺は嬉しかった。
朝も昼も夜も休日もなく、無我夢中に働いた。
"フツー"にブラックな世界だったが、毎日が面白かった。
器用で努力家の彼は、独身寮のある一流企業に就職した。
ヤツは、俺のブラックな社会人生活を理解できなかった。半同棲していた学生時代と同様に、俺の家事や休日を求めていた。
気づけば俺たちは、すれ違いだらけになってた。
あいつはそんな俺に不満をぶつけてきた。
愛撫してくれていたその手が、俺の頬を打っていた。
夢に向かって頑張ってた俺をぶつなんて、俺は悲しかったんだ。
俺は、ヤツに夢をよく語っていた。
今はだいぶハードだけど、仕事を覚えて技術を上げて、自宅で仕事できるようになって、いつか海辺の町で庭のある家に住んで、打合せの時だけ、時々都心に行くような、そんな暮らしをするんだ。その頃にはインターネットも、もっと発達して、そういう働き方ができる時代になってるに違いない。
そんな夢だ。
ヤツは、
そんな夢が実現するはずがない、もっと現実を見て、安定した企業に転職すべきだ、
と、よく俺を諭した…
思い出すと悲しいけど、始めからそんなんじゃない。学生の頃は楽しい思い出だらけだ。
嫌いで別れを切り出したわけじょない。
俺のことを、わかって欲しかったんだ。
なんだかんだ色々あって、結果的に、あいつは俺から離れていってしまった。
当時俺は、自分から切り出したくせに、悲しくて悲しくて、それ以来、実は俺は、本当に人を愛したことはなかった。
もう、四半世紀近くも前の、学生から新卒の頃の遠い昔話だ。
その彼を思い出し、思い切ってメッセージを送ってみた。
どうしてる?って。
返信は来なかった。
きっと、今さらメッセージを送る俺なんて、「フツー」じゃないんだろう…
なんだか今宵は
清々しいほど悲しいな。
人が、すっと自分の人生を消ゴムで消すように終わらせることができるなら
どんなに幸せだろう。
もう一杯飲んだら、眠れるかな…
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