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《可愛いおじさん》

再びアパートに戻り、水分補給をしたのち、出かける準備を始める。 「どこか行くのか?」 「このあと、バイト行くんで、これで晩メシなんか食ってください」 窺うあずまに、簡単に話して二千円を握らせる。 「いや、お金はもらえないから」 慌てて返そうとする。 「ついでに朝食用のパンも何個か買ってくれたら助かるっす、種類は何でもいいっすよ」 受け取りやすいよう、用事を付け足して、手ごと握り込む。 「敬大くん」 「いいから!頼みますよ!遅くなるけど、ちゃんと俺が帰るの家で待っててくださいね」 困惑するあずまに、瞳を重ね、そうお願いする。 「……」 困惑しながらも、小さく頷いたのを確認して… 「それじゃあ行ってきます!」 「あぁ、行ってらっしゃい」 心配しつつも、勢いよく手を振ってバイトに出かけていく。 そうしてバイトをこなして5時間ほどが経ち、23時半。 急いで家路につく。 しかし、アパートに明かりがついていない。 まさか、出て行った? 「ただいま!!」 急いで明かりをつけ、室内へ… 「あ、敬大くん」 暗がりの中に座っていたあずま、急に明かりがついて眩しそうにしている。 「…良かった、居てくれた」 帰ったその足で、あずまを抱きしめる。 「あぁ…おかえり、お釣りを返しておくよ。あと頼まれたパンを…それは?」 慌てた様子を見て少し驚いている様子だったが… 手に下げたビニール袋を指して訊くあずま。 「はい、牛丼買ってきました、夜食に一緒に食べましょ」 「そうか、なら、いいか」 不意に俯いて呟く。 「ん?何スカ?」 「いや、いいんだ、それを食べよう」 チラッとキッチンを気にするあずま、確認にいくと… 「え、これは?」 鍋には野菜と肉の煮込みうどんが… 「…気にしないでくれ、絶対、店の牛丼の方が美味いから」 「いやいや、あずまさん、作ってくれたんすか!?」 「あぁ、まあ、少しでも礼がしたくて、預かった二千円で…けれどいいんだ、明日でも私が食べるから」 「いやいや、食べますよ!もちろん、火傷とかしてません?」 両手が不自由で、食材を切ることだけでも大変なはずなのに…。 俺の為に頑張って作ってくれて、帰りを待ってくれたかと思うと、否応なく胸が熱くなる。 「あぁ、大丈夫…」 「そんなことされたら、俺もう、我慢できなくなりそう」 「我慢?」 「ちょっとだけ、いやダメか、でも…」 抱きしめてキスしたい衝動を我慢できなくなってきて、一人で悶々と考えてしまう。 「敬大くん?」 「いや、落ち着け、落ち着け!」 キスしたらあずまは引いて、出て行ってしまうかもしれない、せっかく一緒にいられるものを、キスで台無しになるのは嫌だ。 けれど、この可愛いおじさんに煽られて、理性も限界に…

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