12 / 36

《夢の時間》

風呂を終えて、もう時間も遅いためあとは寝るだけ。 「じゃ一緒に寝ましょうか」 「え、一緒に?」 「今時はフツーですよ!」 若者はスキンシップが過剰と勘違いしているあずまに、その設定で押し通してみる。 「そうか…、でも狭くないか?」 「あずまさん細いんで余裕っす」 またまた、簡単に信じる天然なあずまに、密かにきゅんとなりながらも、ベッドへ横になるよう勧める。 「そうか、こんなオヤジと一緒に寝るなんて嫌じゃないのか?」 「全然、あずまさんがどうしても嫌なら俺が床で寝ますから、ベッド一台しか無いし」 「いや、それなら、私が床でいいから」 思い切り遠慮するあずま。 「俺と寝るのそんなに嫌っすか?」 「そうじゃない、けど寝相が悪いかもしれない」 「大丈夫!」 「人のそばで、寝たことがないから」 「じゃ試してみましょうよ」 そう促すように肩を抱いてみる。 「…わかったわかった、ありがとう」 やはり押しに弱いあずま、苦笑いしながらも頷く。 「さ、入って」 「こんな柔らかな寝床は久々だ」 ベッドの端へ仰向けに横になり、布団の感触を味わっている。 「よかった、ゆっくり休んでください」 その横へ潜り込みながら、あずまの方を向いて囁く。 「何から何まで、ありがとう」 チラッとこちらへ視線を走らせ、小さく微笑んでお礼を伝えてくれる。 そうして邪魔にならないように壁側に向いて寝ようとするあずま。 「いえいえ」 頭を撫でたくなるほど可愛いおじさんに、困りながらも緩く首を振る。 「やはり、眠って起きたら、全て夢なんじゃないかと不安になるよ」 「じゃ、もっと寄って来てください」 「ん?」 「こっち!温もり伝わります?」 そう壁に寄っている華奢な身体を引き寄せて、身体を寄せ合う。 「敬大くん…あぁ、温かいよ」 「この熱は冷めません、夢じゃなく現実だから、ずっとここに在ります、安心して。また明日、おやすみなさい…あずまさん」 後ろから優しく抱き寄せながら安心させるよう囁く。 「…うん、おやすみ、敬大くん」 「おやすみ」 そう、囁き返し、あずまの傍で眠れる幸せを噛み締めて瞳を閉じる。 「……」 あずまは瞳を閉じながらも、なかなか眠れずにいた。 人のそばで眠るのはいつぶりか… 幼い頃、両親が亡くなる前は母親がそばに寝て、抱き寄せてくれていた。 温かい、敬大の体温を感じながら昔を思い起こす。 今起こっていることは、夢のような出来事… それが現実に起こっていて… このまま、朝になっても、変わらぬ温もりを感じることができるだろう。 けれど、それに慣れてはいけない。 いつかは出ていかなければならないのだから。 冷たく、孤独で、寂しいあの場所へ… だから、決して慣れてはいけない、この温かい日常に…屋根のある生活に… 敬大くんが負担と感じたその瞬間、この夢は簡単に終わってしまうのだから… ただ今は、この温もりを、特別な時を… 幸せと感じる気持ちを素直に受け入れて、許される限り、温かい彼のもとで夢の時間を過ごしていきたいと思ってしまうあずまだった。

ともだちにシェアしよう!