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《いつかは》

「いや、まあ、敬大くんの家だから」 「昨日もだけど、俺がいない時、テレビとか電気つけていいっすよ、エアコンも暑かったらつけないと熱中症になるし」 「いいや、屋根があるだけで幸せだから」 やはり頑ななあずま。 「そういうことじゃ」 「心配してくれているんだね、ありがとう。こう見えて外の生活は長いんだ、多少の暑さは平気だから、光熱費を支払えるようになったら貸してもらうから、敬大くんはいつも通り生活してくれ」 食べさせてもらえるだけでありがたいから、これ以上余分な経費はかけたくない。 「別に払わなくていいよ、俺といる間くらい我慢しなくていい」 そっと肩に触れて言い聞かすが… 「いいや、この生活は特別だから、快適な暮らしに慣れないようにしないと」 「え?どうしてっすか?」 「それは、いずれは出て行かなくてはならないから」 しばらくの間、そういう約束だ。 「当分出て行かなくてもいいっす、外の暮らしを忘れるくらい居てください」 「はは、ありがとう」 「本気で言ってるんですよ」 から笑いするあずまの頬に触れ、視線を合わせて、真剣に伝える。 「うん、けれど、こんなおじさん、すぐ邪魔になるだろう。君に彼女ができたり、大学の友達ができたり、若者同士の付き合いの方が楽しくなる、私は少し寂しいけれど、それが当たり前の姿なんだ、そうなったらすぐに出て行くから安心してくれ」 その手を避けて、首を一度横に振り、そんな風に返してきた。 「邪魔になんかならないし、勝手に出て行ったら駄目ですからね」 何だが寂しくなって、逃げるあずまの左手をそっと握りながら、約束させる。 「勝手には出て行かない、お礼は言って出て行くよ」 ありえないくらい世話になったのだから。 「出て行くって何度も言わないでください、辛いから」 出て行きたがっているように聞こえ、緩く首を振りながら、あずまを抱きしめる。 「ありがとう、わかったよ」 トントンと背を叩き、慰めるように答えるあずま。 「今日昼には一度帰ってきますから、ご飯一緒に食べましょ!」 「そんなに、世話にばかりなれないから、私は日中は缶を集めて回るつもりで…」 「あずまさん!今日は行かなくていいっす、代わりに家事してください、洗濯と掃除、ご飯はそれと引き換えです」 「……」 「お願いします」 そんなことでいいのかと、答えに詰まるあずまに優しくお願いしてみる。 「分かった、出来るだけ片付けておくよ」 小さく頷いて了承してくれた。 「ありがとうございます!じゃ、また昼に!行ってきます!」 「あぁ、ありがとう、行ってらっしゃい」 優しい笑い皺の入る微笑みに癒されながら、大学に向かっていく。

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