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待ち合わせ場所は俺の自宅から二駅離れた街。繁華街の近くにある本屋だった。カフェが併設されているので、そこで待つようにとのことだった。
相手の名前は「雅 」と言った。もっとも、本名ではないだろうが。
『三十二歳。身長百八十以上。職業、自営業。趣味、ドライブ。好み、細身の年下。』
それが相手のプロフィールだった。年上が良いとは思っていたが、三十二は上すぎただろうか。未経験の高校生が相手では不満足かもしれない。
俺はどちらかといえば、男としては悲しいことに、小柄で細身なほうだ。清潔さにも気を付けている。相手の好みからは大きく逸脱しないだろうが、それでも、「お呼びじゃない」と拒否されてしまったら――違う。そんなことを恐れているわけではない。
もしかしたら、今夜、この体に男を受け入れるかもしれない。
そのことに対する期待は大きくあった。だがそれ以上に不安があった。そうなってしまったら、本格的に戻れない。本当に自分は男が好きなのだろうか、という危惧すら脳裏に浮かぶ。
――緊張が隠し切れなかった。カフェの前で足が竦み、思わず踵を返していた。往生際の悪さに腹が立つ。
気を落ちつけようと、カフェを出て本屋部分に足を向けた。
三階建ての建物すべてがこの本屋であり、一階部分は雑誌や文具など求める人の多い品のフロアになっている。そして二階が書籍と、漫画、参考書。カフェは三階にある。二階で適当に本を眺めるかと階段を降りていくと、二階から一階に降りる幅広の階段の踊り場に、女子高生が立っているのが見えた。
まだ夏服と見える、白のシャツと濃紺のスカートのセーラー服。染めていない真っ黒な髪は肩を少し超すくらいで、真面目そうな、全体的に線の細い女子だった。
なぜだかその後ろ姿に、猛烈な嫌悪感を抱いた。
「青春」を体現したかのような、爽やかな出で立ち。「普通」の人生を「普通」に過ごし、ささやかな日常をささやかに謳歌する。周囲と同じようにいじらしく恋をして、そんな姿はなんと愛らしいことだろうか。
俺がどんなに渇望しても手に入らない、そんなことを当たり前に享受しているその、「少女」という生き物が、途轍もなく醜悪で、憎らしいものに思えた。
完全に無意識だった。
俺はその背中を押していた。
平素であれば体勢を崩すこともない、弱い力だったと思う。だが少女は二階で本でも買ったのか、財布に現金をしまうところだった。ただでさえ足元が疎かな状態だった。
驚くほど呆気なく、彼女は宙を舞った。
「あっ」
まるで状況をつかめていない呆気にとられた声がして、白いセーラー服が宙に舞う。全てがスローモーションに見えた。
呆然とその背中を見下ろしていると、階下にいる男と目があった。驚きに見開かれたその瞳に見据えられ、急激に己のなしたことを理解した。
背中を押した。足を踏み外した。落下していく――。落とした。俺が、落とした。
「あ、あ……っ!」
咄嗟に手を伸ばすが、間に合わない。少女のか細い体は段の途中で二回跳ねて、冷たい床に転がった。
近くにいた若い女性が叫び、あっという間に大騒ぎになった。人が集まってくる。取り囲まれた少女は横向きにうずくまり、動かない。さあっと、血の気が引いた。
落とした。俺が。彼女を。突き落とした。
「だ、大丈夫ですか」
「おい、迂闊に動かさないほうがいい」
「誰かこの子の知り合いは……」
騒ぎが遠く聞こえる。ド、ド、と速くなる自分の鼓動ばかりが大きく響く。嫌な汗がこめかみを流れ落ちたとき、少女を取り囲む人だかりの中のひとりが、こちらを見上げた。
群がる人だかりの中でただひとりこちらを見上げる男。彼女の足が地を離れた瞬間、目が合った気がする。確実に気づいている。妙に長身の小綺麗なスーツを着た男が、真っすぐに俺を見ていた。
まずい、まずい、まずい――。逃げなければ、と思うのだが、足が竦んで動かない。自分の小心者っぷりが情けなかった。こちらも男を見下ろしたまま青ざめた顔で荒い呼吸をしていると、突然その男が階段を上がってきた。長い脚で二段飛ばしに上ってきて俺の前に立つと、情けなくも小刻みに震える手をとる。熱い手だった。そして大袈裟なほど大きな声をあげた。
「君も近くにいたよね。大丈夫? 怪我はない?」
「え……」
「手元を見ていて踏み外したみたいだけど、ぶつかったりしてない? 大丈夫?」
男が自分を庇おうとしているのだと悟るまでに時間がかかった。階下からいくつもの目線が向けられる。その目全てが俺を見透かしているような気がした。頭の中で声がする。おまえが落とした。おまえのせいで落ちた。この、屑。
――違う。見られていない。この男、以外には。
ごくりと生唾を飲んでぎこちなくうなずけば、男は俺の手をとったまま階段を下り始めた。手を引かれて一歩一歩降りながら、実感する。ここを、彼女は、落ちたのだと。
「こちらは大丈夫なようです。とにかく彼女を救急車に……」
男のその言動により、俺は間近で落下を目撃したただの通行人として一同に認識された。そのとき安堵という最低な感情が沸いたことを、俺は否定しきれない。
蒼白な顔で黙り込む俺を、「彼も動揺しているようですから」と男は書店の外へ連れ出した。そしてそのまま店内には戻らず、駐車場に停めてあった車へと乗せられる。
車種なんか高校生である俺には分からないが、それでも車体のフォルムや内装で相当な高級車であろうことは窺い知れる。男は俺を助手席に座らせると、自らは運転席に収まった。
そこで初めて男の姿をまともに見て、ぎょっとする。目の前にいるのは、「理想の男性像」を描いた絵画の中から飛び出してきたといってもおかしくないような、美しい男だった。細身だが頼りなくはない均整の取れた体躯、さらりと柔らかく靡く薄茶色の髪。彫が深く、陰を落とす目元はすっきりとした二重で、涼しい口許は口角が自然に持ち上がっている。精巧に描かれた絵を見ている錯覚さえ起こす。と、その絵が口を開いた。
「君が、待ち合わせしてたSくんだよね」
もしやとは思っていたが。それでも驚きは禁じ得ない。こんな美しい男が、出会い系。それも男。そしてその相手が、俺だなんて。
しかも俺はこの男に、少女を突き落とす場面を見られている。非日常的すぎる要素が多すぎて、頭がついていかない。目の前がくらくらした。
「俺が『雅』。いやあこんなかわいい俺好みの子が来てくれただけでも驚きなのに、まさかその子が目の前で殺人未遂を犯すなんてねえ」
「さつっ……」
あんまりだ。そんなつもりなどなかった。ではどんなつもりだったのか、と問われれば返事に窮するのだが……。
「まあ君がどんな理由であんなことをしたのかはどうでもいいんだけどさ。興味ないし。それよりも、」
何も言えずに震えているしかできない俺をよそに、車がゆっくりと動き出す。駆動音は驚くほど静かだった。
「俺が本当のことを言ったらどうなるか分かるよね?」
それは恐ろしい想像だった。あの場にいた人だかり。あのたくさんの目。あれらが自分を取り囲み、糾弾する。人でなし。最低。屑野郎。死ね。ごみを見るような目で、自分を見る。そして俺はその人だかりの先頭に香坂の顔を見た。いつもと同じ、野暮ったい眼鏡の奥で顔を歪ませて吐き捨てる。「死ねよ。屑野郎」。
こんな自分なんかはどうなってもいいとずっと思ってきた。なのに俺はその想像に打ち震えた。足許から冷たいものが這い上がってくる。心臓まで凍えて死んでしまうような気さえした。
「ていうかさあ、SくんのSってイニシャルからとってるの? それとも性癖がSとか?」
おなかすいたね、何食べようか、とでも問いかけるかのような軽い口調で、男、雅が言う。あまりににこやかなその表情と声音に、むしろ底冷えしたものを感じて言葉が出ない。呆気にとられていると、不意に相手の声音が変わる。
「聞いてるんだけど。答えて」
それは内臓を直に握られたかのような畏怖を与える恐ろしい声音だった。俺は今までに人間の口からこのような恐ろしい声が発せられるのを聞いたことがなかった。
「い、イニシャル……」
掠れた声でかろうじて答えると、雅はまたからりと笑った。
「そっか、よかった性癖じゃなくて。俺もどちらかというとSだからさあ。何くんっていうの?」
「慎也 ……」
「慎也くんね。プロフィール通り高三なの? もっと下に見えるけど」
あんなことがあったあとでこんなに気安く雑談ができるその様子に、俺はすぐに察した。この男は、美しすぎる容姿の裡に恐ろしいものを秘めている。決して関わってはいけない。脳内で危険信号が鳴り響く。
今すぐ逃げ出したいのに、車が赤信号で停車しても、体は動かなかった。時折運転席からちらりと寄越される視線で、助手席のシートに縫い留められてしまったかのようだった。
車がどこに向かうかなど、聞くだけ野暮だった。
立ち尽くす俺の襟首を背後からつかむと、男、「雅」は乱暴にそれを放り投げる。俺は強い力でベッドに倒れこんだが衝撃はない。柔らかい感触が貧弱な体を受け止めた。
「やっ……」
起き上がろうとする間もなく男の幅広の体が覆いかぶさってきた。両手の手首を強い力で押さえつけられ、ほとんど身動きがとれない。そもそも四肢が自由だったとしても、俺は恐怖に竦んでしまっていたので動けなかったに違いない。
「緊張してるの? カワイイね」
「ぁっ!」
無防備な首筋に唇が寄せられる。少し湿ったその感触に、全身の産毛が逆立った。
体とベッドの間に腕を差し込まれ、Tシャツがたくしあげられる。あらわになった上半身を男の視線がねっとりと這う。目を固く瞑ってその視線から逃げるが、胸の飾りに直接的な刺激を与えられた。
「あ、ふあっ」
左側は指の腹でこね回され、右側は熱い舌で愛撫される。そんなところで感じるだなんて恥ずかしいのに、じわじわと痺れるような刺激が走る。時折上がる湿った音も激しく劣情を煽った。
「うれしいなあ、こんな若い子のハジメテをもらえるなんて」
うっとりとした口調が耳を嬲る。俺の両手はもう自由になったのに、シーツに縫い留められてしまったかのように全く動かすことができなかった。
望んでいた、はずだった。目を背ければ背けるほど強くなる欲望は、もう抑えるのが限界だった。男に抱かれたい。求められたい。求めたい。ずっとそう思っていたはずだったのに。
なぜ今こんなにも、恐怖が俺を支配するのだろう。
慣れた手腕で次々に衣服を奪われる。ズボンを脱がされた瞬間は小さく声をあげてしまった。気づけば俺は首までまくられたTシャツのほかに何も身に着けず、あおむけに転がされている。
覚悟を決める時間もなく、暴かれた体。その中心で震えているそれは、心とは裏腹に期待で膨らんでいた。
「かわいい。小さいのにこんなに自己主張してる」
「や……みないで……」
「いじめたくなるね、君」
「あ、んんっ」
男の指先が先端をかすめていく。たったそれだけの刺激でそこは激しく震え、頭の奥がじんと痺れた。他人にそこを触られるのは、初めてだった。
「ねえ、されてるばかりじゃなくてさ」
「いッ」
長い前髪をつかまれて、上半身を無理やり起こされる。髪を引っ張られる、という行為がこんなに痛みを伴うものだとは知らなかった。男は肘をたてて上体を起こした俺にまたがり、まだ何も崩していなかった自身の下衣を寛げはじめる。彼が何をしたいのか、何をさせたいのかは分かる。分かってしまう。ごく、と生唾を飲んで成り行きを見守る。視線はそこに釘付けだった。
取り出された雅のそれは、既に雄々しくそそり立っていた。はじめて目の前で見る、他人のそれ。これを、今から、受け入れるのか――。
そのときの俺の目に浮かんだ色は、期待だったろうか、怖じ気だったろうか。雅はふ、と吐息で笑うと、俺の後頭部を抑えて、そこに押し付けた。
おとなしく従って、口を開ける。味はしなかった。ただただ苦しかった。
「ン……グ」
一気に根元まで押し込まれて、うまく息ができない。雅の手に導かれるままに、頭を前後させてそれを扱いた。舌でその形をはっきりと感じる。徐々に質量を増すそれに、何も触られていないのに下半身の疼きが増した。時折大きく濡れた音が鳴るのがひどく耳障りだった。
「ふ、はっ」
どれだけの時間それを続けたか分からない。唐突に口からそれが引き抜かれて、構えていなかった口の端から唾液があふれ出る。
次に何をされるのかと男を見上げる。極限まで落としたほの暗い照明に浮かび上がる雅の顔は、やはり美しかった。形の良すぎる瞼に縁どられた瞳は今や興奮に濡れ、獲物を喰らう獣のように獰猛な光をたたえている。わずかに荒い息を吐く口許は笑んでいて、それが、今一番思い出したくはない人に、どこか似ていた、
目の前のこの男が、あの人だったならば。それはどんなに幸せなことだったろうか。あの手で、あの笑んだような形の唇で、触れられたならば。
余計なことを考えてしまい、目尻に涙がにじむ。雅はそれを見逃すほど鈍い男ではなかった。
「なに。今更いやになってもやめないからね」
そう言うと、おもむろにそれまで触れもしなかった秘所に指を突き立てた。
「ひ、ぃっ」
あまりの刺激に背がしなる。いつの間にやら雅の指は何かでじっとり濡れていて、それが冷たいと感じたのは一瞬だった。人の体の一部が、自分の体内にある。その存在感といったら、何とすさまじいことだろう。
「あれ? 意外と入るね。自分でいじったりしてたのかな?」
軽口をたたきながら指を出し入れする雅はどこまでも楽しそうだ。こすられるたびにねちゃねちゃと粘着質な音が響き、耳をふさぎたいのに、両手はシーツを握りしめたまま動かせない。
「あ、ぁ、んんっ、ひゃ、あっ」
こじ開けるように内壁を押し広げられ、時折先端が深いところをえぐる。何かにしがみついていなければ、暴れまわってしまいそうなほどの刺激だった。
だが、それが快感であったとは絶対に認めたくはない。
「ふ、ぅグ……ん、ん……」
声にならない声が鼻から漏れる。はじめは頑なだったそこも、何度も何度も指が行き来するたびにぐすぐずに溶かされて、今はただひたすらに熱かった。
余韻を残すようにねっとりと間を持たせて指が引き抜かれ、次に何をされるかなど明白だった。
ベッドの上でほとんど衣服をまとわず、仰向けに転がされ、目には涙がにじみ、口の端は唾液で濡れ、あとは調理されるのを待っている食材のような。そんな惨めな俺にまたがってにこりと笑う美しい男に、――これ以上ない恐怖を抱いた。
この男に、抱かれる。好きでもない。何者かも、本名さえ知らない。目の前で人が階段から突き落とされるという異常な事態を前に楽し気に笑ってみせる、この男に。
「――い、やだ……」
けっして大きな声ではなかった。だが明確な拒絶を含んだその声音に対して雅がとった手段は、拳だった。
はじめに感じたのは熱だった。後からじんわりと痛みが沸いてきて、左頬の感覚が麻痺していく。そこではじめて殴られたのだと知った。
「聞き分けの悪い子は嫌いだなあ」
あくまで穏やかな声音に、体が竦む。やはりこの男はおかしい。本能的な恐怖で体が逃げかけたとき、まったく同じ場所に再度拳が振り下ろされていた。
今度ははっきりとゴ、と鈍い音がした。口の中が切れたらしく、血の味がじわりと広がる。
「学習能力ないね。次はこんなんじゃ済まないよ?」
全くの容赦がない暴力をふるっておいて、どこまでもこの美しい男は涼しげだった。
強い力で太腿を掴まれこじ開けられる。硬く、熱く、濡れたそれが、すっかり溶かされたそこにあてがわれた。
もはや抵抗はできなかった。
俺のできることは涙でぼやける視界でそこを見つめ、震えながら、頭の中であの名前を呼ぶことだけだった。
(香坂……っ)
ぐぬ、と入り口が割り開かれる。
同性愛者として生きていくことを決意したならば、いつか通る道だった。それを想定した自慰をしていた。できれば初めてのそのときは愛する人とのそれが望ましかったけれど、それが十中八九かなわないだろうことも理解していた。
だけれど。だけど。
少なくとも、こんなのは望んでいなかった。殴られ、暴力で、さらに弱みで支配され。無理矢理にそこを暴かれるなんて。頭ではこれは嘘だと拒絶したいのに、感覚だけが無常にこれは現実であると告げてくる。叫びだしてしまいたかった。
「あ、ぁ、あ……や、いや……ぁあっ」
拒絶を示す内壁を強引に屈服させ、男のそれが侵入してくる。あまりの圧迫感に息ができない。はくはくと口を開閉させるが、かえって苦しくなるだけだった。
「ふふ……、全部入ったよ」
中で男のものがひくひくと痙攣しているのが分かるほど、そこはぴっちりと繋がりあっていた。まるで下半身だけの生き物になってしまったかのように、感覚がそこに集中する。痛み、恐怖、圧迫感。それだけが俺の全てを支配していた。
「はい。処女喪失オメデトー。これで慎也くんも大人だね?」
受け入れるだけで精一杯な俺に構わず、雅は動き始めた。ず、ず、とモノが行き来するたびに、内臓を押し戻されるような、到底耐えられない異物感が襲ってくる。
「う、うぅ、うグ、んっ」
少しずつ、速度が増す。苦しい。痛い。気持ち悪い。下肢に収束しつつある熱なんて、けっして認めたくはなかった。必死に耐えている間に、男の動きはピストンと呼べる速さになっていた。ギシギシと激しくベッドのスプリングが音をたてる。喘ぎというよりはもはや悲鳴に近い俺の声と、男の荒い息と。あとは接合部が紡ぎ出す、滑稽なほどに性欲に濡れた音ばかりが聴覚を満たした。
「苦しそう。痛い、の?」
「う、ぁ、いた、痛い、くるし……」
「でもさ。あの子はもっと痛かっただろうね?」
ビクリ、と自分でも驚くほど体が跳ねた。最早壊れかけた精神は耐えられない。見開いた瞳からぼろぼろと涙があふれた。
「あ、ァ、ごめ、ごめん、なさい、ごめんなさい……!」
「アハハ。謝ったって、誰も許してくれない、よっ」
「ぅ、あっ!」
より深いところを抉られて、一気に高みに上る。尿意にも似た感覚が下腹部にはしった。
「ねえ、慎也くん? なんて惨めなんだろう。男に受け入れてもらえない僻みから、女の子に怪我をさせて。それでいて今、俺に犯されて、身を縮こまらせて泣きじゃくるしかできない、君は」
「っ……どう、して……」
ぼやける視界の中見上げると、雅は形の良い唇をゆがませた。
「君を見ていれば、わかる。飢えた目をしているからね。愛に飢えた、可哀相な目」
「か、わいそ……なんか、じゃ、あっ、ああっ!」
意識は遠くなっていくのに体の感覚だけが妙にリアルだった。体内にある男のものがどんどん怒張していくのが分かる。繋がった部分が熱い。ヒリヒリして痛い。殴られた頬だって、まだ断続的にズキズキと痛みを訴えてくる。
なのに、俺の体は確実に快感を拾っている。殴られ、犯され、嬲られているのに。陰茎はだらしなく涎をたらして勃ちあがり、ふるふると震えている。今か今かと、絶頂の瞬間を待つかのように。
悔しいし、恥ずかしかったし、怖かった。それも全て、意識の淵に沈んでいく。
「可哀相な、慎也くん。なんて惨めで、可愛いんだろう」
「ふ、うぅっ、あ、や、やだぁ、っ」
拒絶の言葉は許さないとでも言うように、片手で喉を握りこまれた。いよいよ意識が遠のいていく。
「ああ、かわいい。虫かごに入れて、閉じ込めてしまいたい」
「や、ぁ……」
たすけて。先生。
勢いよく吐き出されたものが、俺のものなのか男のものなのかすら分からない。完全に意識を失う直前。脳裏に浮かんだのは、寝癖がボサボサのあの後ろ姿だった。
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