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ゆがんだ愛、抱きしめる腕

 熱が出ていた。  気がつけば、連絡が何度も来ていて、着信もあった。  メールで具合が悪いことを告げると、見舞いに来るという。  大丈夫だと返事をいれたのだが、次に来た連絡で家の前にいるとあり、あわててドアをひらいた。 「迷惑承知できた。上がっても?」  コンビニの袋を掲げる真田に、嬉しさと困惑とがいりまじり、笑顔を浮かべることができなかった。 「入って」 「お邪魔します」  1DKの部屋は綺麗に掃除がされており、物は棚に収められ、小さなテーブルとベッド、そしてテレビが置いてある。 「綺麗に使っているな」 「そうかな」  関心しながら部屋を見る真田に、豊島の表情は曇ったままだ。 「ごめんな、いきなりきて。心配でどうしても顔を見たかった」  と口にすると、顔を上げて首を横にふるう。 「真田がきてくれたこと、すごく嬉しいよ」  片方の手を両手でつかんで胸のあたりでぎゅっと包み込む。  随分と冷えた手をしていて、重ねるように手をおいた。 「いや、具合が悪くてしんどいんだろ。手が熱いな」  豊島の額に自分のをくっつけられて、 「真田っ」  あまりに距離が近くて驚いた。 「あ、すまん」  普段からそういうことをしているのだろう。  こんなにかっこいい人なのだから、自然にこんなことをされたらドキッとしてしまうだろう。  あんなことがあったのに、真田をすきだという気持ちは止められない。 「俺、やっぱり少し体調が悪いから寝るね。帰るときにカギはドアポストに入れておいて」  カギをテーブルの上に置くとベッドへともぐりこんだ。  帰れというべきなのに、傍にいてくれることが嬉しくてそんな言い方をしてしまった。  それに真田がいることに安心して、うとうととしてきた。  ――朦朧とする意識の中、男がまたがり身体を揺さぶられる。  気持ち悪い声と、生ぬるい感触に豊島は流されるまま耐えつづけた。  この悪夢はいつ終わるのだろう。真田に会いたい――  震える身体を大きな手が優しく触れ、こおった心を溶かしていく。 「豊島、大丈夫か?」  意識が浮上し、目の前に真田の顔がある。一瞬、なぜここにいるのかわからなかった。 「え、真田っ」  驚いて思わず布団で顔を隠してしまった。 「なんだよ、その反応」  出ておいでよと布団の上から撫でられて、そっと顔を出した。 「うなされていたが、汗をかいたんじゃないか?」  要約、豊島は我に返る。 「大丈夫か。すごい汗だぞ」  真田の手が触れそうになり、豊島は布団を抱きしめて身をよじる。 「え?」  ベッドがきしむ。真田の手が宙で止まる。  ただ、心配してくれただけなのに。過剰な反応をしてしまった。 「ごめん」 「豊島、何があった」 「へ?」  真面目な表情をしてこちらを見ている。 「何もないよ」  そう笑顔を作るが、真田の手が頬に触れた。 「強張った顔をして。それにふるえているじゃないか」  目を見開く。両手を持ち上げると小刻みに震えていた。 「これは……」 「豊島、俺じゃ頼りないか?」  そんなことはない。すがりたい、彼の胸に飛び込みたい。  だが、あれだけは知られたくない。だからぎゅっと唇をかみしめる。 「豊島」  腕が背に回り抱きしめられた。  その温かさに身を任せたくなる。だが、ダメだ。自分はけがれているのだから。 「や、離して」  腕から逃れようとしたとき、鎖骨に残る痕を見つけてしまい、びくっと肩がゆれた。  そのせいか、真田が顔を下へと向けて、豊島はそれを隠すように服を引っ張った。 「それ……」  見られてしまった。 「豊島、お前、誰かに襲われたのか」  身体が離れたと思ったら、ベッドに組み敷かれて真田が服をつかみめくりあげられてしまう。

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