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夢から現実へ 2

 声がでそうになり慌てて口を手で押さえて耐えた。  それをいいことに秋庭の手は撫でる手を止めない。 「秋庭はどうなんだよ」 「俺はすげぇ仲良しだよ。なぁ、豊島ぁ」  違う。そう叫びたかったが、その言葉を飲み込んで、頷いた。  辛い、はやくここから逃げ出したい。足が震える、力が抜けてしまいそうだ。  不安げに真田を見れば、目を見開き、そして、 「あ……、悪い、秋庭。俺ら、これからほかの友達と合流するんだわ。そろそろ行かないと」  ポケットからスマートフォンを取り出した。 「それなら 「悪いな。仲がいい奴らだけで集まるんだ」  そう真田がキッパリと断った。 「はぁ? なんだよそれ」  仲がいい奴らの中に自分が加われないことが気にくわないのだろう。不機嫌そうに真田を睨み、 「豊島、俺ら、すげぇ仲良しだよなぁ」  手が腰に回った。  もう無理だった。 「豊島!?」  へたりと地面の上に座り込むと、真田がしゃがみこんで手を握りしめた。 「ごめん」 「なに、こけてるんだよ」  真田は心配してくれたのに、秋庭は転んだと思っているらしく呆れた顔をしている。 「最低だな、お前は」  低く、凍り付きそうな声だった。静かに真田が怒っている。 「はぁ!?」 「豊島、立てるか?」  片手をつかみ、もう片方は腰に添えられる。 「うん、ありがとう」  まだ、足ががくがくとするが、立ち上がれた。 「おい、真田、てめぇ」 「豊島、行こう」  秋庭を無視し、来た道を戻り始める。 「おい、まてよっ! 豊島、真田!!」  がらがらとした怒鳴り声が聞こえなくなるまで夢中で歩いた。  その間、真田と手をつないだままだった。 「ごめん、真田」 「いや、それよりも豊島、具合はどうだ?」  かがみこんで額に手が触れた。 「あ……」  あまりの近さに胸が波打つ。さっきまで怖かったのに、その優しさが豊島を包み込んでいく。 「豊島!?」  急に真田が焦り始め、どうしたんだろうと目を瞬かせると、涙が零れ落ちた。 「え、あっ」  まさか泣いていたとは思わず、ハンカチを取ろうとポケットに手をいれるが、それよりも早く真田の指が涙を拭った。 「何があった」  秋庭と、何があった?  その言葉に身体がが強張る。  頭の中によみがえる、思い出したくないできごと。  血の気が引き、足が一歩、後ろへとさがる。 「豊島」 「なにもないよ……」  どうにかそう告げて、笑おうとするがぎこちないものになる。  いえるわけがない。あれは真田にだけは。 「ごめん、帰るね」  これ以上、そばにいると暴かれてしまうのではないかとそれだけが怖い。  真田から背を向けて歩き出すと、 「豊島、また連絡するから」  そう声をかけられて。彼の優しさを失いたくなくて、豊島は言葉を返すことなく歩いて行った。  スマートフォンが着信を告げる。画面に表示されているのは真田の名前だ。  あの喫茶店で待ち合わせをしよう、という内容だ。 「真田君」  真田を想うと切なくなる。会えるのが嬉しい。たくさん話をしたい。  だけど怖い。あのことがバレてしまったら。  スマートフォンを大事そうに握りしめて頭をくっつける。  何を聞かれても笑ってなんでもないと答え続けられるのだろうか。

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