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15.彩雲とその影

 ――放課後。ルーカスは一人パイプ椅子に腰かけていた。眼下にはチークカラーの折りたたみテーブル。向かいにいるのはあの茶髪の上級生・サヤマだ。  HR終了後、景介(けいすけ)を追うその途上で遭遇(そうぐう)してしまったのだ。弱みを握られていることもあり逃げ切れなかった。あれよあれよという間に連れ出され、今に至る。  ここは写真同好会の活動部屋。とは言ってもメンバーは彼以外にいないらしい。つまりはサヤマの城だ。逃げ場がない。  瞳を撮らせろと言われたら。頼人(よりと)のように襲われでもしたら。恐怖に(おのの)き、身を縮こまらせる。 「安心して。キミが嫌がるようなことは何もしないから」  サヤマは言いながらカメラを手渡してきた。 「はい。これでもう撮れないでしょ?」  サヤマから視線を外し、手にしたカメラを見る。このモデルには見覚えがある。父も愛用していたからだ。それなりに支持されていたものの、3年前の4月に生産終了となってしまった。  安価であるために購入したのか。あるいは一途に使い続けているのか。無論、確かめる勇気などありはしない。ただ無言のままボディに触れ、小さな傷をなぞる。 「さて、それじゃあ本題に入ろうか」  1冊の本を机の上に置く。真っ白な表紙には『LIGHT』と書かれている。著者はアーロン・ライブリー。ルーカスの父親だ。 「っ! ……~~っ」  開かれたページを見て身を固くする。 「大ファンなんだ」  綿菓子のような雲の上で虹が螺旋(らせん)を描いている。父の手によって無断で掲載されたその写真だ。日本行きを決意させてくれた大切な景色である一方、ここにあることで(はれ)物のような存在にもなってしまっている。  ――父や世間が求めるアーロン・ライブリーの息子にはなり得ない。その現実を痛感させられたからだ。  希少性。それを除けば何も残らない。同じ内容のコメントばかりが積まれていった。その時のことを思い、ぐっと奥歯を噛み締める。 「サインをくれないかな? サヤマショウマ君へって――」 「したら、帰ってもいいですか?」  想定外であったようだ。(はと)が豆鉄砲を食ったような顔をしている。しかし、そのことに対して優越感を抱くことはない。 「……そうだね。いいよ。今日はそれで」 「……ありがとうございます」  彼のカメラを隣席の座面に置き、油性ペンを手に取った――。

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