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17.木枯らし

『生まれつきなの? いいなぁ、すっごくキレイ!』 『ええ。ずっと見ていたいぐらい』  まだ幼さの残るクラスメイト達が、半ば競い合うようにして黄色の瞳を褒めてくれる。  ――違うこと。  そのことに強いコンプレックスを抱きつつあった当時のルーカスにとって、個性として認められることは何よりもありがたく、嬉しいことだった。 『写真撮ろうよ』  誘われるままインスタントカメラで写真を撮った。ルーカスを中心とした五人で。窮屈だったがそれでも不快に思うことはなく、むしろ弾けるような笑顔が浮かんだ。 『写真持ってきたよ!』  友人から手渡されたその写真はとても大切で愛おしいものになった。この写真はきっと自分が天に旅立つその日まで傍にあり続けるのだろう。そんなふうなことを思いながらロッカーの最奥に貼り付けた。  楽しいに(あふ)れた日々。空気がここにあるように、当然のごとくあり続けるものだと思っていた。しかしそれは単なる幻想。願望にすぎなかった。そのことを、まざまざと思い知らされることになる。 『ルークのことが好きなの』  美しく色付いた葉が街中で踊り出す頃、ルーカスは愛の告白を受けた。彼女は皆の憧れで、写真をくれた友人の思い人でもあった。ルーカスも少なからず好意を抱いていたが、友人を思い頭を下げた。 『ごめん。オレ、君とはこれからも友達でいたいんだ』  心優しい彼女のこと、きっと理解してくれるだろうと踏んでいた。だが――。 『へぇ……そう』  彼女の青い瞳がサーベルのように冷たく、鋭利になる。  ――悟った。  それがいかに自分本位な思い込みであったのかを。  風を受け、周囲の木々がざわめく。普段なら聞き流すような音が、やたらと大きく不気味に響いた。  ――週明け。ロッカーを開ける友人に挨拶をした。けれど、人違いだと言わんばかりに無視をされる。再度声をかけるも『話しかけるな』と突き放されてしまう。  虫の居所が悪かったのだろう。気持ちを切り替えて他の友人達にも声をかけてみたが似たような態度を取られてしまう。  訳も分からず孤立したまま数日を過ごしたが、友人達の態度がルーカスの知るものに戻ることはなく、それどころか友人と紹介するのも(はばか)れるほどに他人、それ以下のものになっていった。 『正直さ、前々からアイツの目、キモいな~って思ってたんだよね』  昼休みの終わり頃。廊下を歩いていると中から馴染みのある声が聞こえてきた。写真をくれた例の少年のものだった。聞くな。もう一人の自分が叫んだが抗ってしまった。原因が分かれば解決の糸口も見えてくるのではないか。そんな期待を軽率に抱いてしまったのだ。息を潜め、開かれたドアに身を寄せる――。

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