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18.落葉
『俺も!』
『ったく、それならそうと早く言えよな!』
皆が大口を開けて嗤う。楽しそうだ。
『ホントよ。そんなんだから付け上がるのよ。ねぇ?』
言い放ったのはルーカスに告白をしてきた少女だった。彼女の言葉に皆が同調する。自分を悪く言うことで皆の仲が深まっていくようだった。両手を握り締めると彼女と目が合う。
どうする。どうしたらいい。あの日々に戻るにはどうしたら。何も出来ず硬直していると彼女は目を細め――嗤った。
――潰 えた。夢も希望も何もかも。楽しいに溢れていた日々はルーカスを一人残して遥か遠くにいってしまった。漸く現実を受け入れた。いや、受け入れざるを得なくなった。
俯 きながら歩き出す。ここにはもう自分の居場所はない。窓ガラスに自分の姿が映り込む。
『っ!!!』
咄嗟 に右目を覆った。直ぐに我に返ったが、手は退けなかった。
――いや、退けられなかった。
嘲笑 が響き渡る。嗚咽 を押し殺しながらロッカーを目指した。帰ろう。一刻も早くここから。ロッカーに手をつき、扉を開ける。
『……えっ?』
中は荒らされていた。テキストには悪意ある言葉が並び、両親から贈られた紺色のジャケットはズタズタに切り裂かれていた。見るな。これ以上は。もう。不協和音が鳴り響く中、ロッカーの奥に目をやる。
――見なければ良かったと心底後悔をした。
写真の中に自分の姿はなかった。塗り潰されていたのだ。黄色のマーカーで。
一生ものの宝であるはずの写真は刃に。ルーカスの心に深く醜い傷を残して消えた。
――それからのことはよく覚えていない。気付けば自宅の玄関に立っていた。
『ルーちゃん! おかえりなさい』
『おぉ! ルーク! お疲れサマ。今日はどうだった?』
父と母は変わりなかった。安らぐことはない。むしろ絶望した。現実なのだと思い知らされて。
『どうしたの……?』
母の手が伸びてくる。頭に血が上り、気付けば弾いていた。どうして?どうして??どうして???堰 を切ったように涙が溢れ出る。
『……ねえ……どうして? どうして……オレだけ……~~っ、オレだけこんな目なんだよ!!!!!!!!!!!!』
泣き叫ぶように問う。母は瞳に涙を溜め、父は顔を俯 かせた。
『っ! あ……っ、……はっ…………~~っ!』
その時になって漸 く気付いた。
――取り返しのつかないことをしてしまったのだと。
母は跪 き、懺悔 する。その声はルーカスのものよりも悲痛を帯びているようだった。
『~~~~~っ、……あぁぁああぁぁあああああ!!!!!!!』
ルーカスは叫んだ。戻らない時を、ただひたすらに悔やんで――。
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