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36.君の傷
たがが外れてしまったのか。覗き見ることへの罪悪感よりも好奇心の方が勝ってしまう。
「~~っ、ごめん!」
封筒を手に取る。折り目はのりしろの部分に一つだけ。使い古した様子は見られない。何か入っているようだ。封筒を傾けると、写真とピンク色の小さなメモが出てきた。
手元に広がる世界。目にするなり声を上げた。満面の笑みを浮かべる――幼い景介 の姿があったからだ。
「小学校の入学式……?」
中央には『茜 山学院初等科入学式』と書かれた看板が立っている。左側にはベージュ色の着物姿の祖母・結子 。灰色のスーツ姿の父・一喜 。右側には黒のジャケット、短パン姿の景介。黒のレースワンピースに白のジャケットを合わせた美しい女性の姿があった。色白な肌。猫目。冷淡でありながら繊細さも感じさせる。ひどく馴染みのある雰囲気を持つ女性だ。
一呼吸置いてからメモに目を向ける。
『レンジでチンして食べてね。 ママ』
よく見ると握り潰されたような形跡がある。一度は捨てようとした。けれど、捨てられなかった。景介の思いとは裏腹に記された内容はひどく簡素だ。耐えかねて再び写真に目を向けた。
この笑顔はルーカスですら目にしたことがないものだった。湧き上がる感情をありのまま表現する。子供だからこそ出来ること。年齢に応じた変化か。いや、一種の自衛なのではないか。そう仮定すると辻褄 が合う。あの日、制作の途中で逃げ出したことにも。引っ越し先を明かさずに姿をくらましたことにも。
「……ごめんね」
謝り、そして新たに誓いを立てた。この弾けるような笑顔を取り戻そう。他ならぬ自分自身の手で――。
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