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38.雨上がりの朝
反射的に声が漏れ出た。景介 の背中や尻と思われる部分がルーカスの体に触れている。硬くて温かい。11の頃とはまるで違う体。戸惑いと共に情欲も掻き立てられる。
「……ちっ」
舌打ちだ。不快でならないのだろう。それが正しい反応。おかしいのは自分の方だ。力を抜くようにして笑うと瞼 が重たくなってきた。当然か。今日は心身にかなりの負荷をかけた。限界なのだろう。もう。
「ルー? ……寝たのか?」
「おやすみ」と言ったつもりが、口はまったく動いていなかった。
嗅ぎ慣れないラベンダーの香りを最後に、ルーカスの意識は眠りの海の底へと沈んでいった。
――黄金色のスープの中でわかめが優雅に舞っている。湯気と共に立ち上る味噌の香り。カーテンから差し込む日の光。日本の朝だ。しみじみと一人浸る。
「ふぁ~……ぁ……」
気の抜けるような大きな欠伸 が聞こえてきた。一喜 だ。上下紺色のパジャマ姿。髪はぼさぼさで目も開ききっていないようだ。もしかすると、意識の半分は未だ夢の中にあるのかもしれない。
「ん~……? いい匂い……?」
鼻を鳴らし周囲を見回す。犬猫のような振る舞いにルーカスの口角も自然と上向いていく。
「おはようございます」
はにかみながら挨拶をする。そんなルーカスは制服姿だ。雨でびしょ濡れになってしまったこともあって制服での登校は絶望的であるかのように思われたが、景介と衣類乾燥機の活躍により事なきを得た。感謝してもしきれない。
「あはっ! ルー君。すっかりお兄さんだ――っ!?」
一喜はルーカスの手元を見るなりフリーズした。
「ごめんなさい。勝手にこんな――」
「手作り……?」
「えっ? あっ……ご飯だけレトルトなんですけど――」
「そんなのぜんっぜん構わないよ!!!!」
一喜は駆け足でテーブルに向かっていく。いらぬお世話だろうと思いつつ一宿一飯の恩で朝食を作った。無論、費用はルーカス持ち。食材は近所のコンビニで揃えた。とは言っても、手の込んだものは何一つ用意していない。ベーコンエッグ、レタスと生玉ねぎのサラダ、わかめの味噌汁、ご飯。バランスも何も考慮していないやっつけ感が否めないメニューだ。
「こんなご飯らしいご飯は久々だよ~。ありがとうルー君!」
「い、いえ! そんな……」
妙に気恥ずかしい。考えてみれば家族以外の人間に料理を振る舞うこと、それ自体が初めての経験だった。明滅する意識。気を紛らわせるべく別の話題を振ることにした。
「あの……起きたらケイがいなくって」
「ああ、ごめんね。景介は今、僕の部屋にいるんだ」
「そう、ですか……」
それほどまでに不快だったのだろうか。
「違うんだ! その、……体調がね、あまり優れないみたいで」
「えっ……?」
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