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39.残す課題、向かう課題

 足元がぐらつく。自分のせいだ。 「ごめんなさい! オレのせいなんです。オレが――」 「大丈夫大丈夫。そんなに重たい感じじゃないから」 「そう、なんですか……?」  医者の彼が言うのだから間違いないだろう。しかし、だからと言って自分の罪が帳消しになるわけではない。 「看病、手伝わせてもらえませんか?」 「……ありがとう。その気持ちだけで十分だよ」 「でも……っ」 「今は一人にしてあげてほしいんだ」 「一人に……?」 「景介、あれで結構気にしいだから」  看病などすれば逆に気を遣わせてしまい療養の妨げになる。そう言いたいのだろう。納得だ。罪悪感は未だ拭い切れずにいるが、これ以上食い下がっても自己満足にしかなりえない。後日、別の形で償うことにしよう。 「さぁ、いただこう。せっかくのご飯が冷めてしまうよ」 「……はい」  味噌汁を盛りつけていく。償いの内容を一人思案しながら。  ――それから1時間半後、ルーカスは一人明生(めいせい)高校の正門を通り抜けていた。その足取りは早く、前を行く生徒達をぐんぐん追い抜いていく。HR開始まで残り15分。一刻も早く頼人(よりと)に謝らなければ。  1年9組の扉横。深呼吸をして中を覗くと案の定彼の姿があった。自席で課題に取り組んでいるようだ。けれど、そのペン先は(わず)かも動いていない。 「~~うぅ……っ」  臆病(おくびょう)風に吹かれて逃げ出したくなる。ダメだ。こんなことでは。景介と約束したのだからきちんと果たさなければ。腹に力を込めて教室に入る。 「あぁ! ル~! ちょうどいいところに――」 「す、すみませんでした!」 「はぇ……?」  疑問符を浮かべる頼人に黒い折りたたみ傘を差し出す。 「んんっ!? 傘のことか……? ははっ、オーバーだなぁ~」 「ち、違うんだ! オレ、その……」 「…………」  言い(よどむ)ルーカス。頼人は唇を引き結び傘を受け取った。 「ひとまず座ったら?」  促されるまま座る。彼から見て左斜め前の自席に。 「で、どうしたんだ?」  一呼吸置いた後で謝った理由を説明していく。景介と育んできた偽りの愛。それを守り通すために自分を(おとしい)れようとしている。そんな照磨(しょうま)の話を()呑みにして頼人の厚意を疑ってしまったのだと。 「ふーん……。で、景介は何って?」 「た、タケちゃんに謝れって」 「それだけ?」 「え? あっ、うん」 「……本当に?」 「うん……」 「…………」  暫しの沈黙の後、頼人は(おもむろ)にメガネをはずした。 「タケちゃ……んっ!?」  何をするのかと思えば両手で自身の髪を掻き乱し始めた。シャンプーでもするかのように。 「ちょっ、ちょちょっ!? タケちゃん……?」 「ダメだ」  不意に手を止めて睨み付けてくる。凄まじい気迫に堪らず息を呑んだ。 「許さない」 「っ……」  落胆を握り潰す。自分はそれだけのことをしてしまったのだ。 「お前が、嘘をつくのを止めない限り。絶対に、な」

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