80 / 116

80.仄淡く、繊細な

 ――数日後の放課後。ルーカスと景介(けいすけ)は画材置き場に立っていた。イーゼルや石膏(せっこう)像、美術用具がひしめくこの場所は(ほこり)っぽく、それでいて甘い香りに満ち満ちている。 『でっ!? でっ!? どこに向かったわけッ!? その超絶美少年はッ!?』 『それがさ、何と何とスポーツの森だったわけ!!!!』 『スポーツの森!? ってことはスポーツマン!?』 『フェンサーよ、フェンサー!! 海外版剣道よ!!!』 『『『テンプレかよ!!!!!』』』  盛り上がる会話。しかし、ここではない。彼らがいるのは扉の向こう。この場にいるのはルーカスと景介の二人だけだ。 「……っるせーな」 「ああ! いいんだよ。お邪魔してるのはこっちなんだし」 「……悪いな」 「いやいや! その……っ、賑やかでいいじゃん!」  ――オレは(ちょっと)苦手だけど。  零れかけた言葉をぐっと呑み込む。 「……まずは俺からだ」  口火を切ったのは意外にも景介の方だった。(おもむろ)に横に退く。そうして目に飛び込んできたのは、黒のメタルイーゼルに置かれた1枚の絵。 「えっ? こ、これって……」  確かにその絵には格技場で鍛錬に励む頼人(よりと)の姿が描かれていた。けれど、そこにいるのは彼だけではなかったのだ。 「何で照磨(しょうま)先輩……?」  そう。手前にはしっかりと描かれていたのだ。景介が()み嫌う照磨の後ろ姿が。 「仕返し、って言ったろ?」 「言ったけど……」 「見せつけてやんだよ。自分がどんだけ不器用で、ビビリで、アイツの、……頼人のことを思ってるのかってことをな」  なるほど。苦笑しつつ改めて彼の思いが詰まった絵を見ていく。絵の中の頼人は(まばゆ)い光に包まれている。日の光だけではない。  ――照磨だ。  彼もまた頼人を照らしている。仄淡く繊細なその光で。 「ケイの気持ち、きっと届くよ」  一刻も早く二人にこの絵を見てもらい。あわよくば愛してもらいたい。そう思えるようになったのは景介の思いを知ったから。彼と同じ側に立つことが出来たからなのだろう。  ――どしりとした安心感と自信が湧き上がってくる。  初めての感覚に驚き、戸惑いながらも喜ぶ。 「ありがとう。これで完成だな」  笑顔で返しながら気を引き締める。次はルーカスの番だ。頭を下げ、白い封筒を手渡した――。

ともだちにシェアしよう!