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80.仄淡く、繊細な
――数日後の放課後。ルーカスと景介 は画材置き場に立っていた。イーゼルや石膏 像、美術用具がひしめくこの場所は埃 っぽく、それでいて甘い香りに満ち満ちている。
『でっ!? でっ!? どこに向かったわけッ!? その超絶美少年はッ!?』
『それがさ、何と何とスポーツの森だったわけ!!!!』
『スポーツの森!? ってことはスポーツマン!?』
『フェンサーよ、フェンサー!! 海外版剣道よ!!!』
『『『テンプレかよ!!!!!』』』
盛り上がる会話。しかし、ここではない。彼らがいるのは扉の向こう。この場にいるのはルーカスと景介の二人だけだ。
「……っるせーな」
「ああ! いいんだよ。お邪魔してるのはこっちなんだし」
「……悪いな」
「いやいや! その……っ、賑やかでいいじゃん!」
――オレは(ちょっと)苦手だけど。
零れかけた言葉をぐっと呑み込む。
「……まずは俺からだ」
口火を切ったのは意外にも景介の方だった。徐 に横に退く。そうして目に飛び込んできたのは、黒のメタルイーゼルに置かれた1枚の絵。
「えっ? こ、これって……」
確かにその絵には格技場で鍛錬に励む頼人 の姿が描かれていた。けれど、そこにいるのは彼だけではなかったのだ。
「何で照磨 先輩……?」
そう。手前にはしっかりと描かれていたのだ。景介が忌 み嫌う照磨の後ろ姿が。
「仕返し、って言ったろ?」
「言ったけど……」
「見せつけてやんだよ。自分がどんだけ不器用で、ビビリで、アイツの、……頼人のことを思ってるのかってことをな」
なるほど。苦笑しつつ改めて彼の思いが詰まった絵を見ていく。絵の中の頼人は眩 い光に包まれている。日の光だけではない。
――照磨だ。
彼もまた頼人を照らしている。仄淡く繊細なその光で。
「ケイの気持ち、きっと届くよ」
一刻も早く二人にこの絵を見てもらい。あわよくば愛してもらいたい。そう思えるようになったのは景介の思いを知ったから。彼と同じ側に立つことが出来たからなのだろう。
――どしりとした安心感と自信が湧き上がってくる。
初めての感覚に驚き、戸惑いながらも喜ぶ。
「ありがとう。これで完成だな」
笑顔で返しながら気を引き締める。次はルーカスの番だ。頭を下げ、白い封筒を手渡した――。
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