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81.ふんわりと、やわらかに

 景介(けいすけ)は慎重かつ丁寧に写真を取り出す。 「……っ! ……すげぇ」  言いながら破顔する。照磨(しょうま)をはじめとした四人がソファに横並びで腰かけている。センターの照磨は白のVネックセーター、明るいブルーのストレートジーンズ。彼の(ひざ)に座する春希(しゅんき)は黄色のスウェット、紺のソフトジーンズ。右側の(かおる)はグレーのフレアスリーブニット、黒のボトムス。左側の(まこと)はキャメルのジップアップセーター、黒のジーンズ姿だ。  本番前。カメラ慣れのために1~2時間程度、日常風景を撮らせてもらったのだが、そこで誤算が生じた。春希が撮影=ルーカスとする遊びと認識するようになったのだ。聞けば照磨に対してもそうであるらしく、言ってしまえば必然。  いざ本番となった時には照磨があくせくとするほどのものになってしまった。しかしながら、ルーカスはこの事態を不幸とは捉えなかった。むしろその逆。好機と捉えた。  末の子らしく甘える春希。そんな彼を(なだ)める照磨の姿は兄らしく、そんな息子達を見守る夫婦の眼差しは涙を誘うほどに優しかったのだ。故にこの瞬間を写し、ふんわりとやわらかに仕上げた。見栄えはあまりよくないかもしれないが、飾らないありのままの姿を捉えることが出来たと自負している。 「あの人もちゃんと子供で、ちゃんと兄貴なんだな」  伝わったようだ。嬉しさのあまり小躍りの一つでも披露したくなる。 「ありがとう。これでオレのも完成だね」  景介から写真を受け取りそっと胸に抱く。この写真を目にした照磨は、頼人(よりと)はどんな反応を示すのだろう。ルーカスの唇がなだらかな弧を描く。同様に景介も。  目と目が合いどちらともなく歩み寄る。彼の肩に顔を埋めると自然と笑みが零れた。彼もまたつられるようにして笑う。  ここは学校。見られてはことだ。離れなければ。そう思うのに動けない。真冬の朝の布団のようだ。後5分などと言い訳をしながら浸っていく。狭くて深い幸福の中へと――。  ――翌日の放課後。美術室にはルーカス、景介、頼人、照磨、(すすむ)の姿があった。部員達はいない。オフであるからだ。  教室の後方、窓の近くの開けたスペースに五人がそれぞれ向かい合うようにして集まっていく。廊下側には頼人、照磨、進。窓側にはルーカス、景介といった具合に。 「いよいよですね。いやぁ~、昨日はもうワクワクで眠れませんでしたよ!」  進はそう言って紅色の丸い腹を揺らした。ベージュ色のチノ・パンツもパツパツで、(しわ)一つない。幸せなのだろう。好き勝手に想像を膨らませ、胸を温かにする。 「じゃあ、まずは僕から」  照磨の武骨で大きな手が伸びてくる。 「っ!!」  緊張で心臓が乱れ飛んだが、景介を見ることでそれも和らいだ。彼が頷いたのを合図に白い封筒を手渡す――。

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