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79.君の隣で

「自分で言うのもなんだけど、それなりにいい絵が描けたと思ってるんだ。でも、そう思うのに何か足りないものがあるような気がして……」  景介(けいすけ)も抗おうとしているのだろうか。(おろ)かしい期待を胸に続きを待つ。 「こんなこと初めてで正直焦った。理由を考えまくって……そんで気付いたんだ」  指で鼻頭を擦る。何度も、何度も。意図が分からず注視して――(ようや)く気付く。彼の白い頬がほんのり赤らんでいることに。 「っ!」  ルーカスの頬も色付き始める。察してしまったからだ。彼が言わんとしていることを。 「俺の絵はお前に見てもらって初めて完成するんだ」  ――全身が震える。  これはたぶん怒りや悲しみのせいではない。 「仕上げてくれないか? お前の目と、言葉で」  喜びが形を帯びていく。創作の場においても隣に立つことを許された。つまりは、不動の地位を得たのだ。理解した瞬間視界が歪む。 「ヤダな。ケイの泣き虫が移っちゃったのかな?」 「言うほど泣いてねえだろ」  否定も肯定もせず笑って誤魔化す。 『心配はいらないよ。ルー君はもう、景介君の絵の一部なんだから』  (すすむ)はこうなることを予見していたのかもしれない。苦笑をしつつ不機嫌顔の彼を見る。 「喜んで。……それと、よろしくお願いします。オレの写真も、ケイに見てもらって初めて完成するものだと思うから」  景介は微笑みを(たた)えて頷いた。  ――お陰でまた一つ(よど)みが解消された。  ありがたく思う反面情けなくもある。しっかりしなければ。景介を、彼の家族を幸せにする。それが自分の使命であるのだから――。

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