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88.誇らしく、厭わしい

「ん? ああ、続けて続けて」  見上げるほどに背の高い筋骨隆々な男性だ。ネイビーのケーブルニットに黒いズボンを合わせている。頬に向かって緩やかに伸びる眼瞼(がんけん)(まばゆ)い輝きを放つ青い瞳。口と(あご)にはバターブロンドの髭。同色の髪は左右に刈り上げられている。  一見するとアスリートのような風貌だが、纏う雰囲気は芳醇(ほうじゅん)な赤ワインを彷彿(ほうふつ)とさせた。 「おじさん……っ!?」  景介(けいすけ)はルーカスから離れるなり慌てて頭を下げた。男性の名はアーロン・ライブリー。ルーカスの父親だ。 「っ、すみません。変なところをお見せしてしまって」 「変なトコロッ!? NONOッ!!!! エッチでサイコー!!!! 目のホヨーでござったよ」  豪快に笑う父に対し景介はきまりが悪そうに目を伏せた。拒絶され続けた3年間。それを誰よりも近くで見ていたのが父だった。そのため、結ばれたと報告をした時には自分のことのように喜んでくれた。パパラッチの真似事も父なりに祝福してのことだったのだろう。 「あぁ……ルーク。リッパになったな。いやはやホントーに」  予想に反して父は穏やかな反応を見せた。思えばこれまでの道のりは決して平坦なものではなかった。共に過ごした苦難の日々。その一つ一つを思い返しているのだろう。  そんな彼からは喜びと共に期待も伝わってくる。しかし、(おく)することはない。今の自分であれば(つむ)げるはずだ。悔い改める言葉を。前進を意味する言葉を。 「父ちゃん、あの――」 「コンタクトも止めて」

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