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90.弾み、転がり

 今年の夏、頼人(よりと)はインターハイで準優勝を果たした。それを記念して撮影したのがこの写真。銀メダルを手にした道着姿の頼人を中心に制服姿のルーカス、景介(けいすけ)照磨(しょうま)の四人が写っている。頼人の左隣に照磨、右隣に景介、その隣にルーカスといった配置だ。  しかしながら、照磨は元々写る気などなかった。いつも通り撮影係を買って出たのだが、そこに待ったをかける人物が現れたのだ。  頼人の幼馴染・嶋先(しまざき)(ゆう)。身長173センチ。小さな顔に長い手足。丸く大きな瞳が印象的な可愛らしい青年――だったのだが、見た目とは裏腹に非常に押しが強かった。何せあの照磨を言い負かしてフレームに収めたほどだ。聞けば飛込(とびこみ)の、それも10mの選手だと言うのだから納得だ。ほぼ裸の状態で電柱ほどの高さから飛び降り宙を舞うのだ。相当な度胸、肝が据わっていなければ務まらない。 「へへっ、父ちゃん。これ見て」 「んん? おぉ! そうそう気になっていたんだ」  父は嬉々として写真を受け取った。満面の笑みでいるのは頼人だけ。他の三人はどうにもぎこちない。  ――慣れていないからだ。  景介はルーカス以外の人間から。ルーカスと照磨はプライベートな場で撮られることそれ自体に。  不格好な笑みを浮かべる自分。正直なところ居た堪れないが暇さえあればこの写真のことを思い、叶うなら手に取ってしまう。  ――共に写っているのが心許せるかけがえのない存在であるからだ。 「今度のは一生ものだよ」  そう言うと父は表情を(ほころ)ばせた。共に写真を撮れるだけの友人を得られた。そのことを喜び、祝してくれているのだろう。 「と、言うことはとーぜん、来るのだろうね?」 「へっ……?」  唐突なフリ。どきまぎする。思えばいつものことであるのだが、久々であるせいかつい戸惑ってしまう。 「ルークのバースデーさ!」 「えっ? ……あっ……!」  ルーカスの誕生日は今日から数えて12日後の1月3日だ。まさか父はそのために。色違いの瞳が潤んでいく。 「来るんだろ?」 「あっ、いや……まだ誘ったりとかは」 「ナゼ!?」 「そもそもやるつもりがなかったっていうか。三が日だし」 「サンガニチ……おぉっ!」  納得したのか父は手を叩いた。 「そうそう、三が日――」 「ふふっ」 「ん……?」  父の笑みが下卑ていく。とてつもなく嫌な予感がする。 「そーか、そーか、ヒメハジメだね!」 「「「違」うよ!!」いますよ!!」  同時に反論した。景介の顔も真っ赤だ。林檎(りんご)、いやそれ以上か。 「そうだよね~。当然、二日はall nightなわけで――」 「~~っ、ですから、違いますって――」 「あぁっ! セッシャに気を遣う必要はないぞ? 気にせずタノしみなさい。余すことなく撮ってあげよう」 「~~っ!!? 撮る必要なんてないでしょう!!」 「What's up!? ヒメハジメだよ!? 大事なmemoriesじゃないか!!」 「っ! たっ、確かに大事ですが、のこす必要は――」 「Nooooooooooo!!!!!!!!!!!!!!」 「っ!? 何です――」 「シンガイだなッ!!」 「はっ……?」 「キミは、疑っているんだね!? セッシャがfuckされているマナムスコをオカズにマスをかくと――」 「ッ!!!???」 「~~っ!? そこまでは言って――」 「逆だよ!!」 「……………」 「……………」 「あっ……」  気付いた時にはもう手遅れだった。父は右手で口元を押さえ、景介は俯き肩を揺らしている。 「ケイがbtmなのか。……なるほど……これがオトコギ……」  拳まで震え出した。まずい。話題を変えよう。必死に頭を働かせて父を見る――。

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