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102.君の今

 ――1週間後の1月2日。16時を過ぎた頃。  ルーカスは一人病院を訪れていた。ライトブルーのパーカーに、ネイビーのジーンズを合わせている。その首にカメラはかけられていない。今日に限らず、景介(けいすけ)が入院し始めてからずっと。撮れるはずもない。彼自身もそれを望んでいないのだから。  控えめにノックをして中に入る。誰も来ていないようだ。静かに扉を閉めベッド横の椅子に腰かける。 「……ぐっすり」  右目に眼帯を付けたまま小さく寝息を立てている。よく見ると左目にはくまが(にじ)んでいた。無理をしている。いや、せずにはいられないのだろう。  検査の結果、景介の色相タイプが右目だけ変異していることが分かった。一般的とされているC型からD型へ。このタイプは赤と緑を知覚出来ない。人の顔は土色に。新緑に香る木々は枯れたように見えてしまう。  だが、それはあくまで右目一つで見た場合だ。左目は一般色覚のままであるため、両目であれば多少くすんでしまうものの生活に支障をきたさない程度には赤や緑を拾えるのだ。にもかかわらず、景介は右目を覆い続けている。D型の世界が(わず)かでも広がることを拒んで。  溜息をつきながら外に目を向ける。 「……っ」  ――また、自分と目が合った。  青く染められた右目が責め立ててくる。おまけに例の嘲笑(ちょうしょう)まで。勘弁してくれ。両耳を押さえて(うずくま)る。 「っ!???」  唐突に視界を覆われる。 「へっ!? ――んぅ……!」  悲鳴も何者かの手によって呑まれてしまった――。

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