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103.差し出される、その手は

「んんっ!! んっ――」 「付き合ってもらうよ」 「んっ……?」  慣れ親しんだ美しくも棘のある声。(うなず)くと今度は乱暴に腕を引かれた。飛び込んできたのは頼人(よりと)照磨(しょうま)の姿。手を取っているのは頼人だった。  照磨を先頭に、頼人、自分の順で歩いていく。三が日の真っただ中ということもあってか、二人とも私服姿だ。頼人はメガネ、黒のダッフルコートに同系色のジーンズ。照磨は狐色のファーがついたカーキ色のモッズコートに、黒のスキニーパンツを合わせている。 「寒ッ!」 「ホント嫌になるね」  ぼんやりと二人を見ているうちに外に出た。どこに行くのかと思えば病院横の公園の中へと足を踏み入れていく。縦長で奥行きのある公園だ。遊具の類はない。(えん)全体を囲うようにして桜の木が植えられている。しかしながら葉も花もない。(いばら)のような枝だけが夕空を覆っていた。 「ここにしようか」  二人の足は右手中ほどのベンチの前で止まった。 「ルーちゃんは真ん中に」 「だとよ」  頼人の手が離れていく。手に纏わりつく空気を異様なまでに冷たいと感じた。日が傾き始めているからだろうか。パーカーの前ポケットに両手を突っ込む。不思議と変化はなかった。 「ほら早く」  促されるまま中央付近に腰かける。樹脂製のベンチは硬く、足の負担を軽減させるかわりに体温を奪っていく。息をつくなり両サイドが埋まった。左に頼人、右に照磨といった具合に。挟まれたルーカスは居心地悪く身を縮めた。 「何、考えてたんだ?」  尋ねる頼人の声はとても穏やかだった。ほっとする。思った直後瞳が潤み始めた。 「言いなよ。聞いてあげるから」  伝えるとなると過去にも言及せざるを得なくなる。二人が知っているのはいじめを受けていたことまで。それ以降については何も知らない。正直気が引ける。だが、無下には出来ない。熱く尊いこの気持ちを思えば。 「…………っ」  ルーカスは勢いよく立ち上がり二人に向き直る。 「逃げる気?」 「いえ。お話しします。いや、させてください。情けなさ過ぎてホント申し訳ないんですけど」  ルーカスはそう前置きをすると(おもむろ)に語り出した――。

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