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105.沁みる朝日

 ルーカスは帰宅するなり重々しく溜息をついた。  ――簡素で生気をまるで感じさせない。  そんな世界がただひたすらに広がっていた。今更ながらに痛感する。開眼直後、景介(けいすけ)が必死になって自分を見まいとした理由を。 「……どうしよう」  再び迷い始める。受け入れさせること。それが必ずしも正しいことなのかと。溜息をついたのと同時に光に包まれる。見れば日が昇っていた。 「げっ……もう7時なの?」  頼人(よりと)達と別れたのが昨日の夕方5時頃。14時間近く探し回っていたことになる。通りで目が乾くわけだ。右目から偽りの青を取り、(まく)っていたパーカーの(そで)を元に戻した。弱気の原因は疲労だ。そうに決まっている。  眉間(みけん)を指で揉みながらテラスに出る。テラスの端では黄色の灯が揺れていた。心のなすままに近付きそっと触れる。寒さに負けずに咲くその姿は可憐でありながら(たくま)しくもあった。花から手を離し手すりに両腕を乗せる。朝日を受けて輝く川は徹夜明けの目には眩しすぎた。  鼻を(すす)り、(うつむ)くと――何かに包まれる。ダウンジャケットだ。ベースカラーは紺でフードには狐色のファーがついている。嗅ぎ慣れたジンジャーコロンの香りに笑みを零す。 「父ちゃん。……ありがとう」  父は笑顔で応えると頭を撫でるような心地のいい声音で尋ねてくる。 「何を考えていたんだい?」 「えっ? あっ、……えっと……」  咄嗟(とっさ)にかけてしまったブレーキ。我に返り緩めていく。父もまた示してくれている。閉ざすのではなく応えよう。応えていいんだ。(あご)に力を込めてゆっくりと口を開いた――。

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