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111.求めて伸びる、白い指先(☆)
木製のフレームに薄いコルク板を挟み込み、おたまじゃくしのような額裏止めで封をした。表に返せばライブリーの家を背にして立つ四人の男性の姿がある。ルーカスはオリーブグリーンのパーカー、カーキ色のカーゴパンツ。景介 は白のロングTシャツ、カーキ色のミリタリージャケットに、紺色のジーンズ。一喜 は黒のスーツにトレンチコート。父は紺色のダウンジャケットに同系色のズボンといった格好をしている。
自分と一喜。景介とアーロン。血の繋がりがないのにもかかわらず似てきていると感じる。妙でありながら照れ臭い。
「これでよしっと」
真新しいフレームを母の右隣に置く。左隣には景介、頼人 、照磨 と撮った写真がある。これから先母の周りは一層賑やかになっていくことだろう。塗り潰すのではなく重ねていくために。
「やっぱこれが取れてからにした方が良かったんじゃないか?」
振り返ると直ぐ近くに景介がいた。上下紺色のジャージ姿。その右腕は黒のアームスリングで固定されている。よくよく見てみると写真の中の景介もそうだ。肩にのせるようにして羽織られたジャケット。そのファスナーの横からは黒のアームスリングで固定された腕がのぞいている。
「いいんだよ。父ちゃんも言ってたでしょ? これは愛の証なんだって」
気恥ずかしさからかふっと目を伏せた。両目共に抜糸を終えたその目からは赤みも引きつつある。管もバルーンもなく、チェロにも似た低く広がりのある声も取り戻すに至っていた。
「くっ……」
とはいえ今はまだ治療の段階だ。こうして痛みが出ることも少なくない。
「ちょっと横になろうか」
景介の肩に右腕を回し、しっかりと抱き留めた。療養先をルーカス宅とした理由。それは介助者である自分・父のいずれかが常に傍にいられ、かつ学校にも病院にもアクセスしやすかったからだ。本人たっての希望で1日でも早く復学出来るよう準備を進めている。――が、体調を見るに時期尚早であるのかもしれない。
「大丈夫だ。ちょっと違和感があっただけで――」
「いいからほらっ、オレに体重預けて――っ!」
白いロングTシャツの袖を引かれる。黒いナイロン製のズボンからは控えめな音が立ち、腕の中の彼と目が合う。
「……っ」
夜空は熱く蕩 けていた。それでいて纏う雰囲気は咽 返るほどに甘い。考えるまでもなく意図を察したルーカスは勢いよく目を逸らした。気を抜けば呑まれてしまう。入院中には他人の目が。退院後は父の目があった。けれど、今はその父すらいないのだ。今日の夕方、残り7時間近くずっと。
「じゃ、行くよ。せーのっ……ふぁっ……!?」
――背に甘い痺 れが走る。
耳を食まれたようだ。
「けっ! ちょっ、~~っ、め……てっ、って! あっ!!」
まるで聞く耳を持たずあろうことか首筋にまでキスをし始めた。
「ダメっ、だって……っ、……はぁっ……け、……い!!!」
「っ!? ~~っ、てぇ……」
致し方なしと景介を床に押し倒した。自由に動く左手も押さえ込んでいる。もう何も出来まい。ほっと息をつき眼下の彼を見る。案の定ひどく険しい顔をしていた。
「俺のため……ってか?」
「う゛っ……! おっ、オレはただ純粋に――おわっ!?」
突如として腰が床に。景介に向かって引き寄せられた。見れば腰に二本の脚が絡みついている。
「なら、お前をくれよ」
「わっ! くっ……!」
追い打ちをかけるように圧をかけられる。
「あっ……」
衣服越しに触れた景介のそれは硬くなっていた。
「……もう限界なんだ」
頬に温もりが触れる。手だ。拘束していたはずの彼の手が上へ上へと上っていき、後頭部の辺りでぴたりと止まる。
「抱いてくれ」
重なり合う唇。夜空の中に自分の姿を認めた刹那 、一つの音を聞いた。ぴんっと張っていた糸が切れるような、そんな音を――。
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