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30.駆け出して
走り去っていく。照磨 が景介 の腕を引きながら。
「ちょっ……!? 狭山 先輩!」
景介は無抵抗だ。一体なぜ。疑問を抱きながらも後に続いていく。
惣菜店が建ち並ぶ白と茶を基調とした清潔感のある自由通路。床に敷き詰められた様々な大きさの四角形が、前から後ろへと流れていく。
――景介と両思いであったのなら。
夢見る気持ちがないと言えば嘘になる。だが、頼人 が本当に自分を欺いていたとしたら。思えば思うほどに喜べなくなる。
「……っ!?」
突然道が閉ざされる。改札の扉だった。
「もぉ……っ!」
顔を上げ、二人の姿を捉える。10メートルほど離れたところ――駅の出入り口付近にいた。雨が降り出したようだ。雫が容赦なく地を叩いている。嗤 う照磨の横で景介は顔を俯かせていた。外が土砂降りであるせいか泣いているように見える。
「~~っ、ケイ!」
体が宙に浮いた。行く手を阻 んでいた改札のゲートを飛び越え前進していく。そんなルーカスを見て満足したのか照磨は更に笑みを深めそっと景介の背を押した。ルーカスの方ではなく土砂降りの外へと。
景介は抗うことなく外に出た。慌てるでもなくシャワーでも浴びるかのように雨を受けている。見るに堪 えない姿に眩暈 すら覚えた。
「ケイッ!!」
入口まで残り五歩のところまで迫る。照磨はウェイターのように頭をさげルーカスに道を譲った。
「……っ」
つい見惚れてしまった。意識を戻し土砂降りの中へ。重たい体。歪む視界の中で硬く逞 しい腕を掴んだ。
――今度こそ。
景介の背を胸に。腹の辺りで腕を組んだ。冷たい。途端に過る空っぽになってしまった母の姿。堪らず命を探す。紺色に染まったシャツの上。胸の辺りに触れると温みがあった。心臓も脈打っている。けれどその温みは雨に呑まれつつあった。ルーカスの温みはまるで伝わっていかない。拒まれている。そんな気さえした。
「……本当のこと聞かせてくれないかな?」
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