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48.照らし出されて
「俺は好きだよ。あの写真もヤカンの写真も。景介 を喜ばせたいって気持ちがビンビン伝わってくるから」
「っ!」
景介と家族以外では初めてのことだった。
――心から嬉しいと思えたのは。
「あの……えっと……」
礼を言いたいのに上手く形に出来ない。もどかしさに歯噛みする。
「いつまでやってんだ?」
話しかけてきたのは景介だった。その口元は少々緩んでいるように見える。荷物は持っていない。いずれも彼の後方10メートルほど離れたところにあるベンチの上に置かれていた。
「お前の絵も楽しみにしてるからな」
「ああ」
即答だった。凛とした眼差しで彼は続ける。
「もう逃げない。何があっても絶対に描き切ってみせる」
力強い宣言。受け取るなり、頼人 は眉をひそめてルーカスを見た。
「聞いてたな」
苦笑まじりに頷 き返す。
「何のことだ?」
知らぬふりを貫くつもりでいるらしい。頼人と顔を見合わせ笑い合う。
「ちゃーんと保健室に連れていってやれよ」
「ああ」
「じゃ、また明日な」
景介にルーカスを託すと、そのまますたすたと歩き出してしまった。後には照磨 も続く。二人の姿が見えなくなった後、ほっと息をつき――はっとする。
「あ゛っ!? 傘!! 返しそびれちゃった……」
頼人に借りた傘。仲直りの証。今の自分の手元にあってはならないものだ。これではしまらない。小さく溜息 をつく。
「悪い。俺も写真を返しそびれた」
脚を洗う前、頼人が景介に預けていたのを思い出す。ちらりと見た程度ではあったがどれも素晴らしい出来栄えだった。知識、技術、情熱。それらすべてを結集して磨き上げた一瞬。ルーカスが理想とする世界が直ぐそこにある。遠ざけたままでいいのだろうか。狭山 照磨であるということだけで。
「荷物は後にしよう。先に保健室だ」
保健室に行った後、その後は……。
「~~っあぅ! ……~~っ」
「痛むのか?」
「あっ! いっ、いや!! ぜっ、ぜンぜん!!」
妙なところで声が跳ねた。意図せず勝手に。落ち着け。下手なことをしては景介の家族に申し訳が立たない。
「…………っ」
そう自身を宥 めようとしたところで思い至る。実際のところどうするべきなのだろうか、と――。
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