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62.宝箱

 ――(あめ)色の木の壁が夕日を受けて輝いている。蜜がたっぷりとかかったハニートーストのような我が家を前に景介(けいすけ)は静かに目を伏せた。言わずもがな、あの日のことを思い返しているのだろう。手早く鍵を開け景介を通す。  玄関に入って直ぐの横の壁には新緑の眩しい(けやき)の絵が飾られている。それを描いたのもまた景介であるのだが当人は懐かしむでもなく無言のまま通り過ぎていってしまう。残念だ。しかし、次はそうもいくまい。内心でほくそ笑み中扉を開ける。 「……お前な。ものには限度ってもんがあるだろ」  やはりそうきたか。したり顔で(うなず)く。無理もない。15点にも及ぶ作品が所狭しと飾られているのだから。 「へへっ」 「……ったく」  悪態をつき顔を(うつむ)かせる。過去の自身の純真さ、懸命さが(まぶ)しくて仕方がない。けれど、嫌いにもなれない。そんなところだろう。気持ちは痛いほど分かる。自身の作品と再会した日のことを思い返し苦笑する。 「ごめんね。でも、オレにとってはどれも宝物だから」 「…………」  景介は何も言い返さない。これ以上この話題を続けるのは酷か。 「お茶淹れてくるね」 「ああ。……あっ、いや、その前に」  景介は床に荷物を置くなり歩き出した。向かう先には母がいる――。

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