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99.解ける手

 ルーカスは急ぎ主治医の波多野(はたの)を呼んだ。 「お待たせしました」  ものの数分ほどで駆けつける。白衣姿の彼は切れ長の目をより細くしながら景介(けいすけ)の容態を確認していく。 「それでは、目の方も診ていきますね」 「……はい」  その声はひどく小さかった。居ても立っても居られず景介の手を握った。彼も直ぐに握り返してくれる。 「……失礼します」  波多野はルーカスの向かい側へ。カバーの縁に付けられたテープを慎重に剥がしていく。目は閉じているようだ。こもる力は解放に向かうにつれ強まっていく。 「正面を向いたまま、ゆっくりと目を開けてください」  気付けばカバーはなくなっていた。両目共に目頭付近には1~2センチほどの縫い目。その周囲は赤黒く染まっていた。 「……はい」  返事はしつつも目は開けない。いや、開けられないのだろう。 「ケイ、大丈夫だよ。オレ、絶対に離したりしない。傍にいるから」  ――今度こそ絶対に。 「ルー……」  景介の口角が控えめに上向く。好意的な反応に安堵した直後、目が開いた。 「………………えっ?」  正面の壁に目を向けたまま固まってしまう。激しく動いているのは(まぶた)だけだ。 「何……だよ、これ……」 「……景介君、私の方を見てください」  言われるまま波多野の方を見る。直後背が大きく跳ね――首を左右に振った。 「嘘だ……嘘だこんなっ……~~っ」 「……け、ケイ? ……っ!?」  手を乱暴に振り払われる。行き場を失った手は宙を舞い膝の上へと落ちていった――。

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