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108.この目で

「昨日はごめんね。顔見せられなくて」 「…………」  拾い上げたそれらをベットテーブルへ。横の椅子に腰かける。 「ケイの目について、色々と調べてたんだ」  聞くなり景介(けいすけ)は鼻で嗤う。 「ひどいもんだろ」  木枯らしのように冷たい声だった。景介の手が、肩が、震え出す。小刻みに激しく。 「汚い。どうしようもねえぐらいに」  怒り、悲しみ、恐怖、不安。冷たく(よど)んだそれらの感情が涙と共に溢れていく。 「それを描け、だなんてな……」 「えっ……」  心臓が嫌な音を立てる。乱れかけた心を(なだ)めつつ尋ねる。 「それ、誰から……?」  返事は………………貰えそうにない。善意による提案。そう解釈しているのだろう。詮索(せんさく)を止めて頭の中を整理していく。  何者かが先手を打っていた。だが、届かなかった。それどころか景介が必死になって抑え込んでいた感情を暴発させてしまった。不安によろけるが直ぐに体勢を立て直す。皆の思いが支えになってくれた。 「ケイ」  真っ直ぐに景介を見る。希望という名の『光』をもたらすために。 「オレの目を見て」 「……何だよ、(やぶ)から棒に」 「右目で、見て」 「あ……?」  (すさ)まじい怒気だ。 「お前までそんな……っ」  想定以上だ。慎重にいかなければ。改めて気を引き締める。 「頼人(よりと)から教えてもらったんだ」 「何を」 「ケイの世界を覗けるアプリを」 「ンだよそれ……」 「それで自分の目を見てね、……その……感動したんだ」 「は……?」 「綺麗だったんだ。本当に」 「……っ」  景介が息を呑む。(わず)かながら期待も感じ取った。上がった口角をそのままに続けていく。 「この目でならケイの未来を照らせるって、本気でそう思えたんだ」  眉間に(しわ)が寄る。恐れているのだろう。綺麗だと思えなかった時のことを。言わずもがなルーカスも同じ不安を抱えている。あれはあくまでシミュレーション。再現度は未知数だ。  しかし、このまま塞ぎ込んでいても事態は好転しない。憎しみ、後悔ばかりを重ねていってしまう。そんな未来を望む人間は誰一人としていない。そう。誰一人としていないのだ。胸に手を当てて静かに息をする――。

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