113 / 116
113.愛証(★)
「…………っ」
深く交わるのはこれで四度目。にもかかわらず未だ景介を絶頂させられずにいた。自分は毎度、少なくとも1回は達しているというのに。
「……ごめん」
無抵抗のまま引き下がる。自覚しているからだ。不得手であると。絶望的なまでにセンスがないのだと。
自らに烙印 を押し萎縮 する。景介はそんな自分をも受け入れ、与える側に回ってくれている。一時はそれらを『愛の負債』と捉え、返すことに躍起 になっていたが――それも杞憂 に終わる。
景介に不満はなかった。むしろ与えることで愛を実感していたのだ。
景介の生い立ちを思えば必然だ。彼は過去のトラウマから失うことを恐れていた。故に存在を実感出来る『与える』という行為は、愛を育む上で必要不可欠だった――はずなのだが、この急激な変化はなんだ。やはり同情してのことなのだろうか。
「はぁ……はぁ……っ、入った」
景介の尻がルーカスの下腹部に乗る。
「んぁっ! あ゛っ!!」
かと思えば落ち着く間もなく腰を振り始める。様々な角度でより良い体位を模索するかのように。
「あ゛っ!? あぅ……ぁ……くっ!」
不意に聞こえてきた悲鳴まじりの声。見れば彼の口端から吐息が漏れ出ていた。それは驚くほどに熱く、甘やかで。
「けっ、ケイ? 大丈夫……?」
太腿 に触れると体がビクンッと大きく跳ねた。訳も分からず目を白黒させる。
「こ、ここ」
「ここ?」
「俺が、一番感じる……とこ。はぁ……っ、はぁ……っ、突いてっ、いっぱ……い」
――前立腺。
男性固有の性器。その存在を知りながらもこれまで一度たりとも触れられずにきていた。先ほどの景介 の反応を見るに期待も出来る。上手くいけば絶頂、至らずともそれに近い快感を与えられるだろう。セックスが不得手な自分であったとしても。
「ありがとう、ケイ……」
彼の細腰に腕を回し――突き上げる。
「アっ!? ぁ……あっ……はぁ……~~~ンンッ」
先端に何かが触れた。硬い。これが前立腺か。
「アッ!? あ゛っ、アッ!! あっ、~~ッ、ン!」
景介の顔が肩に沈んでいく。演技などではない。下腹部に触れる中心が証明してくれている。熱く、ぬめりを帯びたそれが。嬉しい。もっともっと感じてほしい。
「る、ルー……」
背を支えながらゆっくりと覆い被さった。夜空の瞳が揺れている。新たな自分との出会いに悦 び、戸惑っているのだろう。
――愛おしい。
唇に口付けて目一杯の安らぎを贈る。
「愛してるよ、ケイ」
「お、俺も――うぁッ!? あっ、あ! あッ! あぁっ、ンっ……あぁっ!!」
肌と肌とがぶつかり合う。音と共に上がる声は快感の度合いを示すように艶を帯びていく。
「きも……、ち……っ、……ふぅ……ンッ……ルー、~~っ、ルー……あっ!」
「ケイ、……っ、感じて! もっと……っ……もっと……!」
強張る白い肢体に瑞々しく輝く花茎。その時は近い。口角を上げながら一層激しくそこを突いていく。
「あぁっ!? あっ! ……っく……イッ……クッ……イクッ……~~あああぁッッッ!!!!!」
景介の背が大きくのけ反った。震えながら精を放つその姿は涙を誘うほどにいじらしかった。
「くっ……! うっ……」
それとは裏腹に内への締め付けは意識が飛ぶほどに凄まじい。
――このままではまずい。
腰を引こうとするとまた拘束された。
「けっ、ケイ! ダメ!! 離――っ」
「な、中に……」
――切に愛証を求める。
その姿に完全に呑まれてしまった。
「んくっ……! はァ……ッ!」
染め上げていく。奥の奥まで。呆れるほどに。
「はぁ……っ、はぁ……」
「はぁ……、ごほっ……」
眩暈 を覚えるほどの熱気だ。暖房の類は一切付けていないというのに。
「うぐ……っ! ……ふぁ……~~~っ」
理性が優位に。ここぞとばかりに責め立ててくる。居た堪れない。堪らず視線を下向かせる。
「……善かったよ」
「えっ?」
瞬時に顔を上げる。景介は肩で息をしながら微笑んだ。
「マジで一瞬飛びかけた」
「ほっ、ホント……?」
「何だよ。俺のこと見てなかったのか?」
「っ!!!」
意思とは関係なしに景介の乱れ姿がリプレイされる。
「あぅ……あっ……」
顔が熱い。まともに景介の顔を見れない。
「またヤろうな」
「っ!!! そっ、そんな爽やかに言うことじゃ……」
「ならエロく――」
「いいッ!! いいッ!! 結構ですッ!!!」
両手を無意味にバタつかせて拒否する。そんなルーカスを前に景介は腹を抱えて笑った。
「うぅ……っ」
「ワルいワルい」
景介は目を伏せ、自身の隣を叩いた。
「あっ……へへっ」
たったそれだけのことで機嫌が上向く。単純であることこの上ない。
「早く」
「うっ、うん!」
半ばダイブするような勢いで彼の隣に寝転ぶ――。
ともだちにシェアしよう!