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第7話

 なにかの予感があったのかもしれない。  朝見たテレビで今日は雪が降るかもしれないなんて予報を見て、雪とともにユキがもう一度現れてくれないかと窓から外を見ている自分がバカらしくなって外に出た。気分を変える散歩がてら、コンビニでも行って昼飯を買おうという気まぐれの行動。俺としてはそんなものだった。  だからそのタイミングは本当に偶然。  外に出て、鍵をかけながら隣の家のドアが開く気配を感じて何気なくそこに目をやったのは、本当にただの偶然だったんだけど。 「あ」 「あ」  視線が合った相手の信じられない姿に声を上げる俺と、声と一瞬の間の後ぱたんと閉まったドア。  さすがに見過ごすわけにはいかず、数歩歩いただけの隣のドアに向かい、閉じたそれをノックする。これで出てこなかったらピンポン連打してやる、という意気込みが伝わったのか、恐る恐るといった具合にドアが開いた。  そこから覗いたのは、目に眩しいホワイトアッシュの髪。そして気まずげに俺を窺う瞳。どことなく猫っぽいアーモンドアイ。 「……どうも」 「ユキだよな」  三角耳はないし、服装も白尽くめではないけれど、さすがにこの姿は見間違えない。  ユキだ。  改めて明るい中で見ると、当たり前ながら普通の人間だ。あの日、ほんの少しでも猫や雪の精じゃないかと思ってしまった自分を疑うほど普通にそこにいる。 「怒って、ます、よね?」 「というか事情を聴きたい」  あの時の積極的な様子が嘘のように落ち着かない視線は別人のようだけど、ちゃんとここにいるのなら聞いておきたいことがある。なんでこんなことになっているか。その理由。  俺の引かない姿勢を受けて、ユキはとりあえずどうぞと自分の家に俺を招いた。内容が内容だしちゃんと話したかったから、招かれるまま家に上がる。  部屋の中は拍子抜けするほど普通だった。いや、俺の部屋なんかよりは置いてあるものがおしゃれだとは思うけど、普通の一人暮らしの男の部屋で、こいつがここで生活している人間なんだと教えてくれる。  そんな中で、ユキはまずその場に土下座するように膝をつき「騙してすいませんでした」と謝罪をした。それから語られたのは、メルヘンではない現実的な話。  どうやらそもそもの目的の「助けてもらったお礼を言う」というのは、嘘ではなかったらしい。もちろん猫としてではなく、本人として俺に助けられたんだと。  少し前に駅前で酔っ払いから助け出したのが、どうやらユキだったらしい。俺がその男とユキが同一人物だと気づけなかったのは、その時は黒髪だった上に変装用に黒縁眼鏡をかけていたから、だそうで。  その変装用という言葉から察するに、どうもその酔っぱらいは知り合いでなにか揉め事があったらしいから、俺が割って入らなきゃ結構危なかったそうな。  ただそこで逃げた後にお礼を言おうにも俺が誰かわからず、困っていた時にたまたま隣人だと知ったそうだ。けれど、日が経っていたし急に話しかけてお礼を言ったら怪しまれるんじゃないかと変な思い込みをして、なにかきっかけを見つけていた、と。  で、ある時ちょうど窓から俺が猫を助けているのを見て、これだ、と思ったらしい。 「……なんでこれだって思ったんだ?」

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