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既成事実を作ろう!
ご覧頂きありがとうございます。
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それでだ、私の夫はその鬼族の皇子でね
あぁ、説明する
鬼族は大変な階級社会で、下は下僕…これは後でまた説明する
奴隷から、上は『スメラギ』というものが頂点に立ち支配していた
私はそうだな…貴族みたいなものの家の生まれで【青】と呼ばれる一族の出だった
《【青 】?》
そうだね、今の話で他の家は出てこないが、【青 】【赤 】【黄 】【緑 】と特別な役目を持つ、【白 】と【黒 】がある
前者の青、赤、黄、緑の四つの家はまとめて【|四家《よんけ》】と呼んだ
四というのは鬼族では貴ばれる数字でもあった
そして残りの二つは皇子や皇女などが斎宮となり任に就いた
まぁ、この辺のことは今は置いておこう
それで、私は良いところの生まれの義務みたいなもので、夫となる彼との縁談の申し入れがあり、スメラギ様…あー Emperor にお会いすることになって、そこで夫と出会ったんだ
《お見合い?》
いや、違うよ…本当に、色々とあいつはヤバかった。
あの時あれを野放しにしていた者たちに、もっと文句を言いたかったが、もう叶わなくなったな…
前世の私は、その出自から鬼族の最後の純血の子と言われていたんだ。
生家では生まれてからずっとお姫様の様に育てられていたんだ
《クスクス…》
笑うな
男でもオメガだとそういうもので、私は生まれたときから明らかにその傾向が強く、またその理由は大きく美しい【華】を持っていたからだった
【華】というのはオメガの始祖様から齎らされたもので、鬼族が心臓に生まれつき持っているものだ
ぱっと見はタトゥーなんかにも見える花の模様だが、【華】は生きている
鬼にはそれを寄生させて、自分の下僕や伴侶に制限、縛りというcurse をかける力がある
《ヴァンパイアに血を吸われたら、その者もヴァンパイアになるとか、そんなものかな?》
そう、吸血鬼に血を吸われると同じ徒になるなど創作物であるが、主に鬼のオメガが持つ能力… authority もしくは power というものかな?
あちらの世界はとても不思議で、こちらに比べるとモンスターの様な種族はいるし、呪いに魔法や、神でさえ身近なものだった。
オメガのするそれは呪いで以って、相手を自分に縛り付けるんだ
それでだ、この【華】というのが生まれつき個人個人で特有のものを持っていて、私の場合は庭白百合…こちらでは聖母の白百合 の名の方が通りが良いかな?それだった
《あなたの夫はなんの花だったのかしら?》
夫?
とても美しい…青薔薇だったよ
◇◇◇
──その日は妙に熱っぽく、体がだるかったのは覚えている。
「百合 、今日は皇宮に行き皇 様にもお会いする。身なりをしっかりと整え、絶対にいつもの様な態度をしてはならんぞ」
このところ頓 にうるさくなった父が言う。
跡継ぎだと言い、上に立つものの教育を施しながらも『淑やかに、控えめに、美しくあれ』と無茶をなことばかり言う。
そんな父や祖父母にこの頃の僕は反抗していた。
そうはいっても、我が一族の最高権力者の方にお会いするのは、僕ら【青】の家の者、それも当主や跡取りでも稀だ。
何の用件でお会いするかは知らないが、ここは大人しく淑やかに振る舞うことにした。
皇様のご不興を買えば始末され、魂まで【消去 】れたり、喰われるらしい。
皇様は大変恐ろしい方。今回お会いする末の皇子殿下もとんでもなく恐ろしく怖い方だと聞いている。
僕の家である【青】は【四家】の一つなのに問題を起こしすぎて、宗家の者も含め一族は幾度も粛清されている。
宗家の者は皇様からかなり血が遠くなっており、もう没落寸前だ。
だからより慎重になっているんだろう。
「承知しました、父様。
ご存知かと思いますが、僕は外ではそんな真似など致しません」
「…全く、なぜこうも生意気に育ったのか?
あの方によく似て、稀なる美貌を持つ『【青】の美姫』とまで呼ばれ、その為今回もお声が掛かったが…頭が痛い」
父は僕とは似ても似つかない秀麗な顔を顰める。
頭からは立派な二本の青い角が出ている父は、αらしさやΩらしさに妙に拘る。
頭の硬い、鬼のαにありがちな、『Ωはか弱く美しいものが当たり前』といった価値観の父や祖父母は僕に厳しく、母に良く似た美貌や才を褒められるが、それ故に煩い。
鬼の上位の四つの家の一つである、【智】を司る【青】の家の宗家であるうちは、父が大臣ということもあり皆が忙しくしている。
絶世の美貌で知られた母は僕を産んですぐに亡くなった。
九十歳ほど歳の離れた姉が居て、僕を育ててくれていたが、数年前耳長 族の長と恋に落ち、駆け落ちして家を飛び出した。
それからは教育係や偶に顔を出す乳母くらいしか、僕の面倒を見ていない。
偶に会う父に、甘えたいあまりにこういった態度を取るが、それも理解してくれない。
「帰ったら僕の好きな【黄 】渡りのお菓子を買って来てくれる約束。忘れないでくださいね?」
「…事がうまく運べばな」
こんな遣り取りの後、皇宮まで父と共に参内した。
父に付き添い、皇様に目通りするために本殿に来ていた。
順番を待つ間、まだまだ時間がかかりそうなので、許可を取り少し散歩することにした。
『この皇宮では、后陛下のお花の菊が中庭で常に咲いています。他にも美しい花や、鯉なども泳いでいる池などがおすすめですよ』
そんなふうに勧められたので来てみた。
一面に咲く白菊の花。
年中咲き誇るこれは、后陛下の持つ【華】らしい。
今のこの季節、春先ならもう少し違う花も見たい。
桜とかも良いけれど、もう終わった梅や桃なんかも好きだ。
僕の庭白百合は夏頃で、生まれた時に父が庭に植えた。
自分の心臓にあり見慣れているが、開花時期に美しいと言われると誇らしくなる。
(きっと、皇様も妻のそれを自慢したいんだろうな)
池のあたりまで行き、桟橋の側で鯉を見ていた。
まだ舟遊びの時期には早く、餌を貰い鯉にやることにした。
キラキラと光る水面に浮き上がってきて餌を強請るそれは、観賞用にも食用にもしているらしく、なかなか美しかった。
僕は魚は臭くて嫌いなので、美味しそうとは思えないけれど、目を楽しませるこれを可愛いと思った。
…不意にどこからか何か物凄く惹かれる薫りがする。
(香かなにかだろうか?)
皇様や皇子殿下の後宮から薫るΩ の薫り かもしれない。
件の本日お会いする方…噂の放蕩皇子は、沢山の女やΩ にα でさえも、来るものを拒まず囲っていると聞いた。
どんな方かは知らないが相当な淫奔らしい。
『ありえないくらいに美しいが、恐く怖ろしい方』そう言われていた。
その言葉は呪いを撒き散らし、色を好み欲求のままに求め、空腹になれば、そのへんの下僕や奴隷を適当に潰して食べるらしい。
(そいつの宮に入るのだけは御免だな)
僕は【青】の跡取りで、『角も生えてない子供だから大丈夫だ』と父からはそう言われている。
(でも、なんだろう今日は妙に胸が騒ぎ、体が何故かそれを求めてしまう。)
そんな変な状態になってきている。
ほんのり、遠くから薔薇の匂いがする。
(ここにある后陛下の白菊の薫りよりも強く薫るなんて凄いな)
だんだん、近づいて来る。
(なんだろう?本当に良い、匂いだ…)
だんだん、だんだん近づいて…
…すぐそばまでそれは来た。
「見つけた」
皇一族の金色 の双角を持つ、派手な赤毛に金眼と銀眼の大柄でとても美しい男が居た。
(皇の角…それに噂に聞いていた、放蕩皇子と同じ色を持つやつだな?)
(小脇に多分、この池の鯉だよな?それを抱えているけど…
こいつは怒られたり、罰せられたりとかしないのか?)
普通なら誰もしないような、そんなあり得ないこいつの行動に呆れてしまう。
(でも何だろう、こいつの匂いが妙に気になるし、自分の熱もより酷くなってきている気がする…)
体の不調などに困惑していると
「ちっこいけど綺麗な顔をしている。
他も色々と俺の好みだ。
お前、名は?」
それは僕に訪ねてきた。
(声もとても良い)
高すぎず低すぎない、よく通る支配するような強さがある。
(何か色々と失礼なやつだな。
まぁ…隠すものでもないし良いか)
「百合 。【青】の家から来ている」
それは僕をじっくりと視た。
(魂 の見定めを初対面でするとか、ほんとうに失礼なやつだな)
「【青】か…俺に対する評価が辛いとこだな。
仕方がない、既成事実を作ろう!」
少し考えるような素振りをしたが、すぐに僕に向かってこんな言葉を告げた。
(は?なんの事だ?)
「お前はこれから俺のもんになる。
よろしくな。俺は朱点 だ」
その名前は噂の放蕩皇子の名前だった。
男はその男にも女にも見える美しい顔をほころばせ、にこりと笑った。
(無邪気な子どもみたいな、カラッとした青空のような笑顔だな)
「では、俺の閨 に行くぞ」
そう言った男の瞳には銀色の環 が浮かんでいた。
その瞬間からより体が熱くなり、何故か自分秘めた場所が濡れてきた。
他にも体の色んな場所が敏感になり過ぎて、服を着ていることすら辛い。
足にも力が入らず、思わずへたりこんでしまいそうになった。
「軽いな。」
近づいて来た男は鯉を抱える反対の腕で僕を抱えた。
「もっとしっかり食わせて、俺好みに育てねばならんな。
鯉 も食わすか?」
そんなことも呟きつつ、男はそのまま僕を抱え、平然とした様子で歩き出す。
(は?!僕を連れ去るというのか!
こいつは何を考えているんだ!)
「ハハ…お前を、俺は見つけた。」
やろうとしていることは誘拐なのに、それを嬉しそうに語る男。
(でも、こいつの匂いを嗅ぐともう、何も考えなくて良い気もしてくるけど……)
熱によって出てきたおかしな考えを振り払い、僕を誘拐しようとする男に抗議する。
「オイ!僕はこれから父と皇様に会うことになっている。どこに連れてくんだ!!離せよ!!!」
手足を振り暴れて抵抗するが、びくともしない。
「親父には後でしっかり紹介してやろう」
そう言うな否や、男は僕を抱え物凄い速度で駆け出した。
◇◇◇
な?ヤバいだろう
因みにこの時の私はだいたい…十一、二歳くらいだった
そうだよ、かなり幼かったんだ
《は?》
《ペドフィリア?》
夫は…百歳を過ぎていたかな?
《は?!》
《ええぇ?!》
あぁ、鬼族の寿命は永遠というくらいに長い
力の強いものほど顕著だな
肉体の年齢もその者の全盛期で固定される
夫は大体、十代後半から二十代の頭くらいの歳格好だったな
あれは永遠に子供みたいなところのあるやつだった
《それでも…ねぇ?》
昔の時代、低年齢で嫁いだり子を産むのは当たり前だろう?
確かに少し幼くはあったが
鬼族は非常に反則 的存在で、『アレ』と呼ばれるあちらの神から嫌われて、大きな呪いをかけられていた
長寿なのも不老なのもそんな呪いからくるものだ
《呪い?しかし、この後はその…》
この後の事とかを言わせるのか?セクハラだぞ
まぁ…もう語り始めたことだし、良いだろう
呪いについては話しながら解説するよ
後悔するなよ?
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