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 私立白鷺学園は、小学校から大学までの一貫教育を行う、いわゆるエスカレーター式の男子校で、学費もかなり高額なため、それなりの地位や収入のある家庭の子供しか入学できず、少し前まで高校からの入学制度が無かった。  しかし学園長が代替わりした数年前から、外部からの生徒を受け入れ、特に優秀な生徒は奨学生として受け入れる制度ができた。  そして日向は白鷺学園初となる奨学生だ。  ***  一人暮らしの部屋へ帰ると、日向はすぐに部屋着へと着替え、制服をハンガーに掛けた。  備え付けのベッドと机、ちょっとしたキッチンがある六畳1DKのアパートは、物が極端に少ないせいかさっぱりとした印象だ。  物心ついた頃に母親は他界しており、父親も五年前に他界した。  学校へ通うことを父に禁じられていた日向は、五年前医師であった父が仕事先の病院で突然脳梗塞に倒れ、そのまま帰らぬ人になった時、初めて会った父の弟に自分の置かれていた環境の歪さを教えられた。  たった一人の家族を失い、突如広がった世界に一人で放り出され、人とまともに接する事に怯えきっていた日向だが、叔父の矢田部章(やたべあきら)に引き取られ、その恋人と3人で暮らす中で、時間をかけて本来の自分を取り戻していった。  章とその恋人の(あずさ)は今は章の転勤でアメリカにいる。  日向が日本で高校に行きたいと二人に告げると、梓は心配だから自分が残ると言ってくれたけれど、もう大丈夫だと説得して一人暮らしを許して貰えた。  一人になるのはちょっと怖かったけど、いつまでも優しい二人に寄りかかっていられない。  頑張って一歩踏み出してみたら今日は素敵な出会いがあった。  ベッドに寝転んでとりとめもなく考えていると、携帯電話の着信音が響く。  画面を見れば今考えていた章の名前で、日向は慌てて電話に出る。 「章さん?」 『元気か? 入学式はどうだった? 大丈夫そうか?』 「うん。緊張したけど友達もできたよ」 『友達? すごいじゃないか! 梓も喜ぶぞ』 「うん。だから心配しないで」 『アパートは狭くないか? もっといい所を借りれば良かったのに……』  次から次へと心配性の章は話を振ってくる。 「僕にはこれで十分だよ。大学にも行きたいし、あまり広いと掃除も大変だから」 『そうか。日向がいいならそれでいいが……遺産が無くなっても俺が大学くらい出してやるからいらない心配するなよ』 「うん、分かってる。ありがとう」 『困った事があったらなんでも言え。飛んで帰るから』  本当に飛んで来そうな勢いに、吹き出しそうになってしまう。  それにもありがとうと告げ、挨拶を交わし電話を切った。  仰向けに横になり目を閉じて、久しぶりに見た浩也の姿を思い描く。 「コウちゃん、だよね」  机に置かれた写真立てに飾られた写真。  二枚の写真が飾られており、一枚は章と梓と三人で撮ったもの、もう一枚は五年前に撮った大切な二人での写真。  そこには、屈託の無い笑顔の少年と恥ずかしそうに微笑む自分が写っていた。  ――友達になりたいな。なれるかな。  今日できた友達に、ずっと会いたかった人との再会。  この時日向は明日からの高校生活が楽しい物になる気がしていた。

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