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「最初は無視し続けようと思ったけど、矢田部の顔、結構好みだから遊んでやってもいいと思って。だってお前、俺のこと好きだろ? そうじゃなきゃ、あんな目で見ないよな」  ――やっぱり、知られてたんだ。  日向の顔からみるみるうちに血の気が引いていく。真っ青になって俯いた日向に更に浩也は告げてきた。 「本当は学校の人間には手は出さない主義だし、相手にも困ってない。やんわりと見るのを止めるように伝えるつもりだったけど、さっき気が変わった」  浩也は俯いたままの日向の顎を人差し指と中指を使って上向かせる。そして、怯えきったような()を見て暗く微笑む。 「選んでいいよ。このまま帰ったら、今日のことは誰にも言わずに一切俺に近づくな。まあ、誰かに言っても矢田部が付きまとったって言えば、それで済む話だから。それが嫌なら……俺は友達は要らない。セフレ扱いでいいなら側に置いてやってももいい」  言いながら更に口角を上げた浩也に、ようやく日向が口を開いた。 「セフレって……つまり、セックスをするだけの相手って事……ですよね?」  流石にそれくらいは知っているようだ。 「そうだ、嫌なら帰れ。それでこの話は終わり」  掴んだ顎から手を離し、浩也は当然帰るであろう日向の姿を見つめる。実際どっちに転んでも自分に損はない。  ただ、自分の心の中に入り込もうとしている目の前の存在が、目障りなだけだと浩也は自分自身に言い聞かせた。  いつもみたいに誤魔化せないのは、何かを訴えかけるようなその瞳のせいだ…… と。 「僕は…… 」  少しの間考えていた日向が意を決したかのように浩也を見つめる。長い睫毛が縁取(ふちど)る瞳は少し潤んでいるようにも見えた。

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