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 一緒に帰る約束なんてした記憶はもちろん無いし、そんなことを浩也が言う理由がまったく分からない。思わず顔を見つめるが、優しげに微笑むその表情から感情を読み取ることは出来なかった。  ――どうしたらいいんだろう?  いつもなら、昼休みでざわついている廊下だが、今日は随分と静かな気がする。 「日向、 どうした?」  隣に立つ亮に声をかけられて、早く返事をしなければとようやく日向は口を開いた。 「約束だったよね。待ってるから、手伝い頑張って」  なるべく自然に笑顔で話すようにしたつもりだが、成功していたかどうかは分からない。  この状況で他の言葉を返せば、声を掛けてきた浩也の立場を傷付けてしまうし、自分も浩也に話したいことがある。他に答えようも無かった。 「じゃあ放課後。呼び止めて悪かった」  やはり笑顔で告げてきた彼は、待たせていた何人かのクラスメイトと学食の方へ歩いて行った。 「どういうこと? 日向、いつの間に北井と仲良くなってんだ?」  驚いた様子で聞いてくる亮に、なんて答えればいいか分からず戸惑っていると、 「昼休み終わっちゃうから、その話も中庭でしよ」 言いながら佑樹が先に歩き出したので、日向と亮は慌ててそれに続いた。  中庭は新校舎と旧校舎との間にあり、ヨーロッパ風の庭園の中に幾つかベンチが設置してあり、手入れも行き届き綺麗なのだが、旧校舎が今はほとんど利用されていない為、あまり来る生徒もいない。適当なベンチに三人で座り、昼食を食べ始めた。 「日向が寝坊なんて珍しいね。パンじゃ足りなかったら俺のつまんでいいよ」  小さめの重箱に詰めてある佑樹手作りの弁当は、仕出しの物みたいに立派で、趣味だと言っていたけれど、十分にプロでも通用しそうな出来映えだ。その半分以上がいつも亮の胃袋に納まる。 「ありがとう。ちょっと夜更かししちゃって」  答えながら卵焼きを一つだけ貰った。甘く焼いてあるそれは、塩加減も丁度良くて疲弊した心と体がすこし癒されたような気がする。

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