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 *** 「ヒナ、おはよう」 「おはよう…… 北井くん」  終業式の朝、爽やかな笑顔で挨拶をしてくる浩也に対し、できるだけ笑顔で日向は答えた。  明日からは夏休みで、日向が初めて『ヒナ』と浩也に呼ばれてから二週間ほどが過ぎている。その間、時々会話を交わす二人が、週に二、三回一緒に下校する姿も、学校では日常の光景となりつつあった。 「今日は一緒に帰れる? 」  尋ねる形を取ってはいても、日向にとっては命令だ。  いつものように「はい」と答えようとして口を開きかけたのだが、後ろか伸びてきた掌に口を塞がれ止められた。 「っ!」  驚きに目を見開いた日向の背後から、聞きなれた声がする。 「今日は駄目! 日向は俺達と一学期の打ち上げで、カラオケ行く約束だから」  聞いていないし約束もしていない事を言われ、口から手は離れていったが驚きのあまり声が出ない。 「そうなのか? ヒナ」  尋ねてくる浩也に対し、なんて返事をすれば良いのか分からずに、オロオロと目を彷徨わせれば、さらに後ろから笑い声がした。 「佑樹は約束なんてして無いだろ。日向困ってんじゃん」  目をやると、可笑しそうに笑いながら亮が告げてくる。 「だって、夏休みになったら日向とあんまり会えなくなるから」  シュンとしたような佑樹の声に、亮は少し考えてから、いいことを思い付いたような表情を浮かべ口を開いた。 「だったら日向と北井が良ければ四人で行こうぜ。それでいいだろ? 佑樹」 「日向が行くなら」  こちらを見つめる佑樹の誘いを断るのは嫌だけれど、浩也の誘いを断ることもしたくない。  そんな事を考えていると、それまで黙っていた浩也がクスリと笑う声がした。 「俺が行っていいなら、一緒に行くよ」 「え?」  驚きのあまり大きな声が出てしまう。

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