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浩也はいつも洋服を着たまま日向のことを玩ぶから、基本的に呼び出しの時には日向だけしかシャワーを浴びない。
――きっと今日は暑かったから、汗を流したかっただけだ。
今日は次々と常に無いことが起きたから、どうしても不安になってしまうが、そんな気持ちを打ち消すように頭の中で結論を出すと、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して、ソファーに腰かけ口へと含む。
――喉、乾いてたんだ。
喉が潤ったその途端、急に涙がこみ上げてきた。
玄関で起きた出来事は、自分の中では処理しきれないほどに衝撃的なもので、浩也の命令だとはいえ、なかなか割り切れそうに無い。
――疲れた。
涙を袖で拭った日向は体育座りのように膝を抱え込み、膝の上へと顎を乗せる。
いつもはすぐに脱いでしまうから、あまり気にしたことはなかったが、借りているバスローブは素材がふかふかしていて気持ちいい。
――そういえばこのテレビ、点いてるの見たこと無い。
そんな他愛もないことを、ぼんやり考えている内に、日向は降りてくる自分の瞼を止めることが出来なくなった。
***
『……○○、起きて!』
――誰? この声……知ってる。
『あっ起きた! おはよう○○、いい天気だよ』
――おはよう。
薄く開いた目に映ったのは快活そうな少年の姿で、明るく笑うその姿を見て日向まで嬉しくなってしまう。
『今日はいいもの持ってきたんだ』
――何?
『カメラ! これで一緒に写真撮ろうよ』
――写真? 二人で撮れるの?
『こうやったら撮れる』
隣へと来たその少年が日向の肩を引き寄せて、反対の手に持ったカメラをこちらに向けたまま手を伸ばす。
『撮るよ、笑って!』
――笑ってって、さっき起きたばかりなのに。
『撮れた! 良く撮れてるよ。ほら』
見せられた液晶画面には明るく笑う少年と、はにかむように微笑む自分が2人並んで写っていた。
『プリントして持って来るから、二人だけの宝物にしよう』
――ありがとう。嬉しい!
『○○が淋しくないように、いつかずっと一緒にいられるようにする。だから約束だよ……』
――そう、約束した。
守られる筈もない、小さな子供が交わしたただの口約束。
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