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 末期の癌だと診断された母の入院する病院で、偶然出会った存在へと浩也は初めて恋をした。  はにかむような笑顔に癒され、この想いがあの夜胸へと宿った暗い欲望を、取り去ってくれると信じていた。  二人で撮った写真は宝物で……。 『こうちゃん』  自分を呼ぶ透き通った声音に胸が熱くなるのを感じた。  母の葬儀のあと、父を慰める斗和の姿が許せなくなった浩也はそのまま家を飛び出した。  しかし、たどり着いたその場所に、求める相手はもういなくて……探す手立ても見つからない。  いつも、誰にも見つからないように訪れていたし、浩也が知っているのは相手の名前だけで、看護師に聞いてみたけど、分からないと言われてしまえばそれまでだった。  少しして、仕事が多忙で不在がちだった父親は、浩也が一人では心配だからという理由をつけ、相談も無しに斗和を家へと住まわせる事にした。  浩也は何も知らないと、きっと思っていたのだろう。  澄ました顔で引っ越してきた斗和に対し、父の手前もあるから表面上は普通に接していたけれど、心の中ではどうしても彼を許す事が出来なくて、その反動からバレないように遊びはじめた。  父に真実を聞けなかったのは、それでも父を慕っており、斗和に騙されているだけなのだと思っていたかったから。  だけど本当は、斗和との関係を認める父の姿を見たく無かったから。  父親達の前や学校では優等生を完璧に演じ切る事に成功したが、ストレスは徐々に積み重なり、浩也の心を歪めていく。  父やその愛人に対する憎悪と、自分の中に巣食う衝動を消化する術を知らなかったから、浩也は試しに女性を抱いてみた。 だけど、誰を抱いても父親の上で乱れていた斗和の姿を思い出してしまう自分がいて……憎悪しながらも欲情している自分自身に反吐が出た。  そんな毎日に、頭の中が狂いかけていたのかもしれない。

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