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「花火に行きたいです。ご褒美にって、駄目ならいいけど、できたら……」
「8月最後の土曜日だっけ? いいよ」
切羽詰まった表情をした日向が言葉を紡ぐ姿が、あまりに必死な様子だったから浩也は笑いそうになった。
「ありがとう。楽しみにしてます」
嬉しそうに微笑む日向へ「じゃあな」と一言告げてから、浩也はその場を後にする。
家に向かって歩きながら、あまりにも分かりやすい日向の反応を思いだし、浩也はたまらず苦笑を漏らす。
――引き留めたいのがバレバレだ。
部屋へと入ってしまったら、抑えが効 かなくなりそうなくらい、夕焼色に染まった日向の姿には色気があった。
酷く扱った自覚が充分あるだけに、それでも純粋な気持ちを滲ませ自分を見つめる日向の気持ちが浩也にはよく分からなかった。否、分かりたくなかったのかもしれない。
「ただのバカだ」
低く呟かれた言葉は日向に向けられたものなのか? それとも……。
『ほだされたりなんて、ありえない……だろ?』
聖一に言われた言葉が、浩也の頭の中へと響く。
――そう、そんなことはありえない。
浩也にとって必要なのは、秘密を漏らさず言うことを聞く便利な存在だけなのだ。
そう自身へと言い聞かせながら、ざわつく気持ちをあえて無視して浩也は歩く。下手な優しさを見せた事を後悔した。
だけど、嬉しそうな日向の笑顔を思い出せば、花火の約束を反故 にすることは躊躇 われれる。
――約束した事はしょうがない。
その躊躇 いが、自身の変化の表れだと……この時の浩也にはまだ気づくことができなかった。
第二章 終了
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